膀胱がん、悪性に進展しやすい遺伝子異常に対する治療改善が必要
岐阜大学は6月26日、早期膀胱がんの性質を反映した動物モデルを確立し、マイクロRNA-145(miR-145)の低下が早期膀胱がんの発生・進展のトリガーになっていることを明らかにし、さらにmiR-145の化学構造を改変して抗がん活性を向上させた核酸医薬を開発し、早期膀胱がんモデルに膀胱内投与すると病変の悪性進展が抑えられることを実証したと発表した。この研究は、同大大学院連合創薬医療情報研究科の平島一輝G-YLC特任助教、赤尾幸博特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy Nucleic Acids」に掲載されている。
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膀胱がんは最も多い泌尿器系がんで、喫煙歴のある男性に多く発生する。全世界で年間43万人以上が膀胱がんと新たに診断され、18万人が死亡している。膀胱がんの75%以上は早期に発見されるが、早期段階でもすでに遺伝子異常をもち、悪性に進展しやすいタイプ(UROMOL2021 class 2b)があり、再発や全身転移、死亡の原因となっている。
早期膀胱がんは血管に乏しい膀胱粘膜表層に存在し、血管内ではなく膀胱内への薬剤注入により治療される。現在は弱毒化ウシ型結核菌(BCG)を膀胱内に注入し、非特異的に免疫を刺激する治療が行われているが、BCGによる治療では悪性化に関わる遺伝子異常は抑えることができない。そのため、治療を行ったとしても再発や悪性進展を十分に抑えられないうえ、一部の症例では激しい副作用が起こることが問題となっている。過去数十年にわたり悪性化に直結する遺伝子異常を抑えられる新しい膀胱内注入医薬は開発されておらず、治療法に改善がない状態となっている。
病態に関わるmiR-145、動物モデルで病変形成早期から低下と判明
これまでに赤尾特任教授は、進行型の悪性膀胱がんではmiR-145の低下が病態に関わる因子として極めて重要であることを明らかにし、miR-145の補充が有望な治療戦略となりうることを報告してきた。しかし、早期膀胱がんに対しては、薬効を検証できる適切な動物モデルが存在せず、悪性進展におけるmiR-145の役割や治療効果を検証できていなかった。
今回の研究では、病理組織学的解析、次世代シークエンサーによるゲノム解析、生化学的試験などの手法を使って動物モデルを確立し、検証を行った。その結果、喫煙に関連して発生するN-Butyl-N-(4-Hydroxybutyl) Nitrosamine(BBN)という化学物質を特定の条件でラットに与えると発生する早期病変が、悪性に進展しやすいヒトの早期膀胱がん(UROMOL2021 class 2b)と極めて類似した性質をもつことを発見した。この動物モデルを利用して研究を進めたところ、miR-145は病変形成のごく早期から低下しており、多くのがん遺伝子の制御を介して早期膀胱がんの発生・進展に中心的な役割を果たしていることがわかった。
改良型miR-145を核酸医薬として開発、動物モデルの早期病変の悪性進展を抑制
さらに、研究グループはmiR-145の化学構造を改良し、高い抗がん活性を持つ新しい核酸医薬シーズであるmiR-145-S1を開発した。miR-145-S1を早期膀胱がんモデルの膀胱内に投与しmiR-145の発現を補充したところ、早期病変の悪性進展が抑えられることが判明した。
「miR-145-S1は早期膀胱がんの悪性進展を抑える新たな核酸医薬シーズとして今後の開発が期待される。また、研究で確立した動物モデルを応用することで、今後の早期膀胱がんに対する治療研究がさらに加速化すると考えられる」と、研究グループは述べている。
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