関節リウマチと「アミノアシルtRNA合成酵素」の関連性は不明だった
国立国際医療研究センター(NCGM)は7月3日、抗リウマチ薬ブシラミンが、標的タンパク質であるアミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetases; aaRSs)を介して作用する機序を発見したと発表した。この研究は、同センター研究所 肝炎・免疫研究センター 免疫病理研究部の鈴木春巳部長および木村彰宏室長らの研究グループと、東京医科大学の半田宏教授らのグループとの共同研究によるもの。研究成果は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に掲載されている。
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関節リウマチ(Rheumatoid arthritis; RA)は、免疫応答の異常により関節に炎症が起こる自己免疫疾患で、日本では人口の0.5~1%が罹患し、男女比は1:3~4で女性の患者が多い疾患として知られている。発症メカニズムに関しては不明な点も多く残されているが、遺伝的要因と環境要因が組み合わさって起こる自己免疫疾患と考えられている。
サイトカインは免疫応答の制御において重要な役割を果たしている。これまでに多くの種類のサイトカインが発見され、このサイトカインの異常産生が自己免疫疾患の発症や病態悪化に大きく関与していることが明らかにされてきた。IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインはRAに大きく関与しており、実際にこれらサイトカインを標的とした治療薬も開発されている。したがって、RAの治療においてサイトカインの異常産生をいかに制御できるかが非常に重要と言える。
抗リウマチ薬のブシラミンは、サイトカイン産生を抑制することなどが知られているが、その作用メカニズムはほとんど解明されていなかった。研究グループは、ブシラミンの標的タンパクとして「aaRSs」の同定に成功しているが、RAにおいてaaRSsがどのように関与しているかは不明であったことから、RAとaaRSsの関連性を解明すべく研究を進めた。
全てのaaRSsがサイトカイン産生を誘導、ブシラミンが産生を抑制
これまでの報告で、tyrosyl-tRNA synthetase(YRS)をはじめとした一部のaaRSsが細胞外に放出され、さまざまな生理活性を有していることが報告されていた。研究グループはまず、「細胞外aaRSsがRAの発症や症状の悪化に大きく関与し、ブシラミンはその細胞外aaRSsの機能を阻害しているのではないか」と考えた。
マクロファージにおいてaaRSs刺激後、IL-6などのサイトカイン産生を調べたところ、20種類全てのaaRSsがサイトカイン産生を誘導できることが判明した。また、aaRSsによるサイトカイン産生にはLPSの受容体として知られているTLR4を介していることや、ブシラミンがaaRSsによるサイトカイン産生を抑制することも明らかになった。
aaRSsは20~100倍量のサイトカイン誘導、RA患者でaaRSs濃度「高」
aaRSsはアラーミンとして作用していることが示されたことから、aaRSsとこれまで知られている他のアラーミン(HMGB1など)によるサイトカイン産生量を比較したところ、それぞれ同じ濃度でマクロファージを刺激した場合、aaRSsは他のアラーミンに比べ20~100倍量近いサイトカインを誘導できることが明らかになった。
aaRSsにアラーミン活性があることが確認されたことから、実際にRAにおいてaaRSsが細胞外に放出され、血中や病変部位に存在しているのかについて解析を進めた。健常人とRA患者血清中のaaRSs濃度を比較したところ、YRSをはじめとした一部のaaRSsの濃度がRA患者血清において有意に高くなっていることが判明。また、病変局所である関節の滑膜液中においては、変形性関節症の患者よりもRA患者の方が、aaRSs濃度が劇的に高いことも示された。これらの結果から、RA患者では病変局所および全身においてaaRSsが細胞外に放出されていることが判明した。
aaRSsはPAD4の放出、ACPAsの産生誘導にも関与し病態を進行させている可能性
抗シトルリン化タンパク抗体(Anti-citrullinated protein antibodies; ACPAs)は関節リウマチに特異性の高い抗体で、関節リウマチの診断の指標や発症予測に使われている自己抗体の一つ。PAD4はこのACPAsの産生誘導において中心的な役割を担っている酵素の一つとして知られている。aaRSsはマクロファージからサイトカインだけでなく、PAD4放出も誘導することが明らかになった。実際に、PAD活性の高い患者やACPAs陽性患者において、RA患者滑膜液中のaaRSs濃度がコントロール群に比べ有意に高くなっていた。
これらの結果から、aaRSsはサイトカイン産生を誘導し免疫応答を強烈に惹起するだけでなく、PAD4の放出にも関与することで、ACPAsの産生誘導にも関与していることが示され、関節リウマチにおいて2つの側面から発症や病態の進行に関与している可能性が示唆された。
aaRSsのサイトカイン誘導阻害ペプチド「YP51」を同定、モデルマウスで治療効果も確認
以上より、aaRSsをターゲットとしたRAに対する治療法の確立が重要と判明した。ブシラミンはaaRSsによるサイトカイン産生を抑制したが、低濃度のLPS刺激によるサイトカイン産生も抑制した。このことから、ブシラミンがaaRSs特異的な阻害剤としては使用し難いことが判明した。本来であればアラーミンとして機能するaaRSsを特異的にブロックするaaRSs中和抗体を作製するのが常道だが、20種類すべてのaaRSs(あるいはそれぞれのRA患者血清において高い値を示しているaaRSs)に対する中和抗体を作製するのは現実的ではない。そこで研究グループは、阻害ペプチドの作成を試みた。ヒトYRSタンパクを53分割し、分割されたそれぞれのペプチドの中でaaRSsによるサイトカイン誘導を阻害できるペプチドがあるか探索した。
その結果、いくつかの阻害ペプチドが発見され、特に「YP51」と呼ばれるペプチドはRAのマウスモデルであるcollagen-induced arthritisやcollagen antibody-induced arthritisに対して高い治療効果が認められた。また、このYP51を投与されたRAマウスモデルでは血中のサイトカインやaaRSs、PAD4の濃度がコントロール群に比べ劇的に減少していることも示された。まだメカニズムは不明だが、YP51はYRSだけでなく、他のいくつかのaaRSsによるサイトカイン誘導も抑制できることが判明したという。
自己免疫疾患に対するaaRSsを標的とした新規治療法確立に期待
これまで、RAをはじめ筋炎などの自己免疫疾患において、いくつかのaaRSsに対する自己抗体が産生されていることは報告されていたが、aaRSsそのものが自己免疫疾患に関与しているかについてはほとんど解明されていなかった。
今回の研究成果により、aaRSsが細胞外に放出されアラーミンとして機能することでRAの発症や病態の悪化に大きく関与していることが示されたことから、RAに対するaaRSsを標的とした画期的な新規治療法の確立が期待される。
「今後は、RAだけでなく他の自己免疫疾患における細胞外aaRSsのはたらきも解明していくことで、さまざまな自己免疫疾患に対してaaRSsをターゲットとした新規治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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