脊髄が徐々に圧迫され進行する頸髄症、発症初期の発見が重要

東京医科歯科大は6月29日、書く動作に着目し頸髄症の疾患スクリーニングの可能性を示したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科運動器機能形態学講座の藤田浩二講師、大学院医歯学総合研究科整形外科学の山田英莉久大学院生、慶應義塾大学理工学部情報工学科の杉浦裕太准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。

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頸髄症は脊髄が徐々に圧迫されていく進行性の疾患であり、進行に伴って手の使いづらさ（巧緻運動障害）や歩行障害が現れ、日常生活に大きな支障をきたす。しかし頸髄症は発症初期には症状が乏しいため、病院を受診して専門医によって診断される頃にはすでに進行し治療を行っても症状の改善が乏しく、適切な治療のタイミングを逃してしまうことも少なくない。良好な予後を得るためには早期発見が重要であり、発症初期の頸髄症の患者を見つけ専門医への受診を促すようなスクリーニングシステムの確立が望まれる。

書字動作の解析でスクリーニングするシステム、機械学習で頸髄症の有無を判別

研究グループは、頸髄症の代表的な初発症状のひとつである手指の巧緻運動障害のうち、書字障害に着目し、書字動作を解析することで頸髄症があるかどうかを判別するスクリーニングシステムを考案した。システムは病院外での使用を想定し、市販のタブレット端末（Apple社のiPad Pro）とスタイラスペン（同Apple Pencil）で構成されている。慶應義塾大学と共同で開発した専用アプリケーション上で、画面に表示させた簡単な図形（渦巻き、矩形波、三角波）を被検者にスタイラスペンでなぞってもらう。図形をなぞっている間にペン先の座標と筆圧を経時的に測定する。これらのデータから頸髄症に特徴的な動きを抽出し、機械学習を用いて頸髄症の有無を判別する。

医師による身体診察法と同等以上の精度、特別な医療機器は不要

上記システムを用いて、頸髄症患者38人、頸髄症のない被検者66人を対象に疾患の有無を推測させた結果、感度76％、特異度76％、AUC0.80という良好な結果を得た。これは医師による従来の身体診察法と同等以上のスクリーニング精度だった。

このシステムは普段の生活の中でも行うことの多い、書字動作を市販のタブレット端末とスタイラスペンのみで計測し、人工知能（AI）によって解析することで頸髄症のスクリーニングを可能とした初めての技術である。システムの特徴として特別な医療機器を必要としないことから、将来的に病院外での使用や専門医が不在であるクリニックや一般家庭でのスクリーニングシステムとしての使用に応用できる可能性がある。さらに、この方法は被検者に意識させることなく計測することが可能で、この技術を応用してクレジットカードのサインなど日常生活中に浸透させることで、疾患の早期発見と専門医への誘導につながる可能性があると考えられる。

医療費の削減にも寄与、手に障害をきたす他の疾患にも広げられる予定

システムの実装により、MRIなどによる高コストの検査によるスクリーニングを抑制、早期治療介入の実現による症状悪化後の治療の減少により医療費の削減にも寄与できると考えられる。「すでに本法で同様に手の使いづらさをきたす疾患である手根管症候群のスクリーニングにも成功しており、今後も手に障害をきたす他の疾患についても対象範囲を広げていく予定である」と、研究グループは述べている。（QLifePro編集部）