cHLにおけるRS/H細胞の形成や複雑な染色体異常の原因、CD30の役割は未解明
北里大学は6月29日、古典的ホジキンリンパ腫(classic Hodgkin lymphoma:cHL)細胞において、CD30が活性酸素産生を介して染色体DNA損傷と細胞分裂異常を誘発し、リード・シュテルンベルグ(Reed-Sternberg:RS)細胞の出現や複雑な染色体異常に関与していることを示唆する研究成果を発表した。この研究は、同大医療衛生学部の堀江良一教授(現:神奈川工科大学研究員、北里大学大学院医療系研究科一般研究員)、同大医学部、東京大学大学院新領域創成科学研究科らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
cHLは、1832年にイギリスのトーマス・ホジキン医師により「リンパ節が腫れて死に至る病気」として報告された。現在ではcHLは、CD30を強く発現した腫瘍成分である、大型で複雑な染色体異常を有する多核のRS細胞や単核のホジキン(H)細胞が、多数の反応性リンパ球の中にわずか数パーセント存在する特異なリンパ系腫瘍として知られている。しかしRS細胞やH細胞の形成機序、複雑な染色体異常の原因、さらにはCD30の役割についてはいまだ明らかではない。
cHL細胞株のCD30刺激により増加した多核の大型細胞に、染色体橋を発見
研究グループは、cHL細胞株を用いて検討する過程で、CD30刺激によりRS細胞様の多核の大型細胞が増加することに気がつき、さらに注意深く観察すると、増加している多核の大型細胞の核同士がヒモ状の構造物で結ばれていることを発見した。DAPIという染色体DNAと結合する物質を用いて調べると、ヒモ状の構造物は染色体橋であることが判明した。染色体橋は細胞分裂を障害することが知られており、RS細胞様の多核の大型細胞の形成に関与していると考えられた。
細胞増殖を抑制しDNA二本鎖切断および遺伝子コピー数の異常増加を誘導
染色体橋の形成は染色体DNA損傷との関連が知られているため、重篤な染色体DNA損傷であるDNA二本鎖切断を検出するγ-H2AXに対する抗体を用いて検討したところ、CD30刺激がDNA二本鎖切断を引き起こしていることを見出した。さらにDNA二本鎖切断は染色体不安定化や染色体異常を引き起こすことからアレイCGHで染色体遺伝子の解析を行うと、CD30刺激がcHLに遺伝子のコピー数の異常、特に増加(gain)を誘発することが明らかとなった。さらに細胞増殖という視点で検討したところ、CD30刺激はcHL細胞の増殖を抑制したが、CD30刺激を解除するとcHL細胞は再び増殖した。これらの細胞には染色体異常を起こした細胞も含まれると考えられた。
CD30刺激によるPI3K活性化、活性酸素を産生しDNA二本鎖切断を誘発
CD30刺激がDNA二本鎖切断を誘発する原因は何か?はじめにRNAシークエンスを用いて検討したが、CD30刺激でcHL細胞において変動する遺伝子を多数認めたものの、DNA二本鎖切断の誘発と直接関連するものは見当たらなかった。さらに検討する過程でCD30刺激が活性酸素を産生、活性酸素がDNA二本鎖切断を誘発することを見出した。CD30刺激によるDNA二本鎖切断の誘発は活性酸素阻害薬により抑制された。さらにCD30刺激による活性酸素産生、DNA二本鎖切断の誘発はPI3Kの活性化を介していることが明らかとなった。これらのことにより、CD30刺激はPI3Kの活性化を介して活性酸素を産生、活性酸素がDNA二本鎖切断を誘発することが示唆された。
今回の研究により、CD30刺激がPI3Kの活性化を介して活性酸素を産生、活性酸素はDNA二本鎖切断を誘発して染色体が不安定化、染色体橋の形成により細胞分裂が障害されて多核のRS細胞が形成される一方、複雑な染色体異常の原因となることが示唆された。細胞分裂異常は多倍体の単核細胞の形成にも関与することから、この過程は大型単核のH細胞の形成にも関与しうると考えられた。すなわちcHLの特徴であるCD30の発現は、他の特徴である多核のRS細胞や単核のH細胞の形成や複雑な染色体異常と密接に結びついていると考えられた。
CD30への分子標的や活性酸素産生制御、cHLの発症予防や治療につながる可能性
CD30刺激は、RS細胞形成前の小型の単核細胞にもDNA二本鎖切断を誘発することから、CD30刺激はこれらの小型の単核細胞にも染色体不安定化を誘導すると考えられる。以前の検討で、RS細胞の多くは死にゆく細胞であることが判明している。リンパ節において、CD30刺激はcHL細胞に周辺に存在する反応性の細胞から間欠的に加わっていることが想定される。「さらなる検討が必要であるが、CD30刺激による活性酸素産生を介した染色体DNA損傷と増殖抑制、その中断による増殖促進の繰り返しがcHLの病態の進展に関与しうると考えられる。したがってCD30を分子標的とすることや活性酸素産生制御がcHLの発症予防や治療に貢献する可能性がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・北里研究所 プレスリリース