X線透過格子を用いたX線位相イメージング法、撮影感度に課題
東北大学は6月28日、X線位相イメージング法に使われるX線透過格子の構造と配置方法を工夫し、撮影感度を増幅する仕組みを考案・実証したと発表した。この研究は、同大多元物質科学研究所の百生敦教授、ドイツ・カールスルーエ工科大学微細構造技術研究所のポーリア ザンギ(Pouria Zangi)博士課程大学院生、パスカル メイヤー(Pascal Meyer)博士らの研究グループによるもの。研究成果、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
1895年にレントゲン博士がX線を発見して以降、レントゲン撮影(X線透視撮影)は、非破壊検査、医用画像診断、保安検査などの目的で広く行われている。レントゲン撮影のコントラスト(濃淡)は、X線が物質を透過する度合いを表し、X線を強く吸収する物体はX線の影として描出される。一方、X線の多くが透過してしまう、軽元素からなる物質(高分子材料や生体軟組織)には十分な陰影が得られないという欠点がある。
これを克服する技術として、X線位相イメージング法が研究されている。X線位相イメージング法では、X線の吸収ではなく、屈折や散乱に基づくコントラストで画像を生成する。原理的には、従来の吸収コントラストより約1,000倍の感度が見込まれる。X線位相イメージング法の中でもX線透過格子を用いる方式は、病院や実験室で広く使われているX線管と組み合わせることができるため、その実用性に注目が集まっている。X線透過格子は、シリコンなどの基板上に隙間を作りながら細い部材を数ミクロンから10ミクロン程度の周期的に並べたもの。微細加工技術を駆使して、X線をそのまま通過させる部分とX線の強度、あるいは、位相を変化させる部分が、交互に細かく形成されている。
百生教授は医用機器メーカーやX線機器メーカーと共同で、X線位相イメージング法に基づく医用画像診断装置や非破壊検査装置のプロトタイプ開発を行ってきた。一部の用途で製品化に至っているが、より広い実用展開のためには更なる高感度化が望まれている。
X線透過格子を従来の矩形状のものから、放物線形状のものに入れ替え感度増強
一般的なX線透過格子を用いたX線位相イメージング法の基本的構成はタルボ干渉計と呼ばれ、X線が被写体と格子(G1,G2)を透過すると、X線カメラではX線のモアレが記録される。タルボ干渉計では、被写体による僅かなX線の屈折や散乱でモアレ画像が変化する現象をもとに被写体の画像を生成する。撮影の感度は格子間の距離に比例し、また、格子の周期に反比例する。したがって、撮影の感度をさらに上げたい場合は、格子間隔を広げるか、周期の小さい格子を準備する必要がある。格子間隔を大きくすることは装置の大型化を意味し、実用性の観点からは望ましくない。格子の周期(通常は数ミクロン)を小さくすることは、現在の格子製作技術では容易ではない。
百生教授は、これまで矩形構造であったG1格子を、X線集光効果のある凹型放物線形状の格子と反対形状の凸型放物線格子を組み合わせたものに入れ替えると、X線の屈折が増幅され、モアレ画像がより大きく変化することを見出した。これにより、コンパクトな装置構成で、かつ、従来の格子周期を維持したまま、感度だけが増幅されたX線位相イメージングが実現することになる。
作製した放物線形状の格子、感度増幅効果を確認
国際共同研究先のカールスルーエ工科大学において、放物線格子をX線リソグラフィとニッケルメッキによって製作した。その形状は、約2倍の感度増幅を見込んで設計されていた。テスト試料としてナイロンファイバを撮影し、従来のタルボ干渉計による結果と比較したところ、理論通り、約2倍の感度増幅効果が確認された。
「研究は原理実証の段階にあるが、今後、放物線格子が大型化されれば、国内外で進められているX線位相イメージング法の実用化開発(医用画像診断機器、非破壊検査機器、あるいはX線CT装置など)に適用できる。X線位相イメージング技術の展開範囲が広がり、社会普及を加速することが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース