希少がん治験は都市部に偏在、地方在住患者の治験アクセス改善が課題
国立がん研究センターは6月27日、希少がんに対する産学共同の治療開発プラットフォームであるMASTER KEYプロジェクトで実施されている2つの医師主導治験において、全国の患者が地域に居ながらにして同センター中央病院が実施する治験へ参加することを可能とするオンライン診療等の体制を構築したと発表した。これは、同研究センター中央病院国際開発部門/臨床研究支援部門の中村健一氏らの研究グループによって実施されている。
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2023年3月末時点で、中央病院で実施中の治験数は525課題あったが、地方の大学病院のがん治験数は一桁ということも珍しくない。また、遠隔地から中央病院で実施している治験に参加することを希望したとしても、移動のための時間的、経済的負担によって断念するケースも多く、治験へのアクセスの地域間差は、地方在住の患者にとって大きな課題となっている。特に、希少がんの治験は都市部に偏在しており、地方在住患者の治験へのアクセスの改善について希少がんの患者団体からも強い要望が寄せられている。
希少がんについては、中央病院が中心となって全国の7施設と15の製薬企業が参画するMASTER KEYプロジェクトを実施しており、この中で希少がんの治験を積極的に実施している。2023年6月時点で27の医師主導治験・企業治験をプロジェクトとして実施しているが、治験実施施設が都市部に限られていることから、治験に参加したい患者側の視点、治験への参加を勧めたい医療機関側の視点の双方から、さらなる治験アクセスへの改善策が求められてきた。
地方在住患者の患者、中央病院実施の治験へ参加可能となる体制を整備
一方、コロナ禍をきっかけに、日本でも条件付きで初診からのオンライン診療が可能となり、治験に関しても「オンライン治験」の可能性が模索されるようになってきた。このオンライン治験は、海外でもDecentralized Clinical Trial(DCT)と呼ばれ、主に良性疾患に対して適用が進みつつある。日本でも厚生労働省でオンライン治験に関連した通知が発出されるなど、導入に向けた動きが進んでいたが、がん領域での導入事例はまだ限られていた。こうした背景をもとに、今回、中央病院ではMASTER KEYプロジェクトで実施されている2つの医師主導治験でオンライン治験を開始。全国の患者が地域に居ながらにして中央病院が実施する治験へ参加することを可能とする体制整備を行った。
地域のパートナー病院と連携、中央病院に来院せず治験参加が可能に
従来、中央病院で実施する治験へ参加するためには、決められたスケジュールで東京都の中央病院まで毎回来院する必要がある。今回のオンライン治験では一度も中央病院に来院することなく、治験へ参加することが可能になる。
オンライン治験へ参加するためには、近隣の医療機関(パートナー病院)を受診し、治験へ参加する条件を満たすかどうかを検査する必要がある。条件を満たした場合、パートナー病院と中央病院をオンラインでつなぎ、パートナー病院の主治医同席のもと、中央病院の医師から患者に治験に関する説明を行い、治験参加への同意を得る。治験薬(経口薬)は、中央病院から患者の自宅へ直接郵送し、患者は中央病院の医師の指示のもとで内服を行う。治験期間中の検査については、決められたスケジュールのもとパートナー病院で検査を受け、検査結果はパートナー病院から中央病院に共有される。こうした仕組みによって、患者は一度も中央病院へ来院することなく、治験へ参加することが可能となる。
パートナー病院は現在2施設、今後さらに拡大予定
なお、パートナー病院は、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院のいずれかである必要がある。中央病院とパートナー病院との間で、あらかじめ、あるいは患者から申し出があった時点で施設間契約を締結する。現在のパートナー病院は、国立病院機構四国がんセンターと島根大学医学部附属病院の2施設。今後、パートナー病院を全国に拡大し、希少がんオンライン治験ネットワークを整備していく予定だ。
早期治験終了・治験コスト削減などのメリットに期待
オンライン治験の主なメリットは、「地方在住の患者の治験アクセスが劇的に改善し、居住地を問わず中央病院で実施している治験への参加が可能になる」「中央病院にとっても全国の患者が治験参加可能となれば、治験完了に必要な患者数を早期に集めることができる」「予定より早期に治験が終了することや、モニタリングをリモートで行う体制を同時に構築することで、治験にかかるコストを削減できる」の3点だ。
今回、オンライン治験を開始するのは、希少がんに対する2つの医師主導治験。準備を進めている医師主導治験の1つは、「局所進行・再発類上皮肉腫に対するタゼメトスタットの第II相医師主導治験(NCCH2107/MK012)」だ。今後はMASTER KEYプロジェクトで実施される医師主導治験・企業治験にも積極的にオンライン治験の導入を進めていくという。また、希少がん以外への拡大や、患者の来院とオンライン診療を組み合わせたハイブリッド型のオンライン治験の実施など、患者のニーズや研究の特徴にあわせ、治験へのアクセスを改善する取り組みを進めていく。日本だけでなくアジア全体においても、効率的な治験実施体制の構築を行っていくとしている。
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・国立がん研究センター プレスリリース