ミトコンドリア障害による慢性炎症とうつ・不安様行動の関連は?
広島大学は6月29日、うつ病や不安障害を呈するモデルマウスを用いて、脳の海馬で細胞の働きに必要なエネルギーを産生するミトコンドリアに障害が生じていることを確認したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の森岡徳光教授、中島一恵助教、中村庸輝助教、吉本夏輝(大学院生)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Experimental Neurology」に掲載されている。
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ストレスはうつ病や不安障害発症の原因となるが、長期に渡って続く痛み(慢性痛)も非常に大きなストレスとなり、実際に何かしらの慢性痛をもつ患者は、うつ病や不安障害を発症しやすくなることが知られている。うつ病や不安障害の治療には、抗うつ薬や抗不安薬が処方されるが、約30%の患者では薬が効果を示さないため、新たな治療薬・治療法の確立が望まれている。
研究グループは以前より、慢性痛モデルマウスがうつ・不安様の行動を示すことを見出していたため、これらをうつ病や不安障害のモデルマウスとして用いて、治療標的を探索する研究を続けてきた。また、これらのモデルマウスの脳内で炎症が生じていることを確認していた。
ミトコンドリアは細胞内小器官として、エネルギー産生のほか、カルシウムイオン濃度の調節、酸化ストレスの軽減などに関与している。最近、ミトコンドリアの機能異常が慢性炎症を引き起こし、がんや認知症、さまざまな生活習慣病の発症に関係していることが知られている。そこで研究グループは今回、慢性痛によってうつ・不安様行動を示すマウスを用いて、ミトコンドリアの機能異常による炎症と症状の関わりについて調べた。
モデルマウスの海馬でミトコンドリア障害が発生、クルクミン投与でうつ・不安様行動改善
研究では、慢性痛によってうつ・不安様行動を示すマウスを用いて、脳・海馬においてミトコンドリアの障害が生じていることを明らかにした。
また、このモデルマウスに対して、ミトコンドリア機能を改善するクルクミン(ウコンなどに含まれるポリフェノール)を投与したところ、うつ・不安様行動が改善した。
マウス海馬で炎症性物質インターフェロン増加、ミクログリア活性抑制で症状改善
さらに、このモデルマウスの海馬では、炎症性物質であるI型インターフェロンが増加し、脳の免疫担当細胞であるミクログリアが活性化していたが、これらの反応もクルクミンによって、対照群と同程度にまで抑制された。また、I型インターフェロン受容体に対する中和抗体をモデルマウスに経鼻投与すると、ミクログリアの活性化が抑えられるとともに、うつ・不安様行動が改善したという。
うつ病や不安障害に対する新規治療薬開発に期待
うつ病や不安障害は、ミトコンドリアの働きが障害されることで脳の細胞が元気を失うことにより、発症している可能性が考えられる。今回の研究成果により、ミトコンドリアやI型インターフェロンがうつ病や不安障害に対する治療薬の新たなターゲットとなることが期待される。
「今後は、ストレスがミトコンドリア障害を引き起こすメカニズムやⅠ型インターフェロンによるうつ・不安障害の発症メカニズムについても研究を進めていく予定だ」と、研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果