病態の一因と考えられる聴覚/自発ガンマオシレーションの変化、発症早期での変化は?
東京大学医学部附属病院は6月27日、精神病ハイリスクの人と統合失調症発症早期の患者で、聴覚ガンマオシレーションが低下する一方、自発ガンマオシレーションは変化しないことを明らかにしたと発表した。この研究は、東京大学相談支援研究開発センターの多田真理子講師、同病院精神神経科の笠井清登教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Translational Psychiatry」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
ガンマオシレーションは、神経細胞が発する信号のひとつで、脳の情報処理基盤に関わる。ガンマオシレーションの発生には、神経細胞の抑制性信号と興奮性信号のバランスが関連すると考えられており、これらのバランスが崩れることが精神疾患病態の一因である可能性が示唆されてきた。
中でも、音を聞かせた時にみられる聴覚ガンマオシレーションは、統合失調症で低下していることが知られる一方、音刺激と直接関連せず、脳から自然発生したガンマオシレーション(自発ガンマオシレーション)は上昇しているという報告がある。そのため、それぞれ異なる病態を表していると考えられてきたが、その関係は十分にわかっていなかった。特に、発症早期の患者で、聴覚ガンマオシレーションと自発ガンマオシレーションがどのように変化しているのかは知られておらず、病状との関連は不明だった。自発ガンマオシレーションの上昇は、疾患モデル動物で再現されることがよく知られており、慢性期の患者のみではなく、発症早期の患者で変化しているのかどうかが注目されている。
音刺激時の脳波応答を高密度脳波計で計測、発症5年以内の患者を対象に調査
研究グループは、発症早期の患者を対象に、聴覚ガンマオシレーションと自発ガンマオシレーションの変化について、次のような方法で調べた。統合失調症を発症して5年以内の統合失調症の早期段階の患者19人、精神病ハイリスク者27人、健常対象者31人を対象に、研究用の高密度脳波計を用いて、1秒につき数十回の音刺激を連続して聞く際に生じる脳波応答を計測した。
早期患者は幻聴の程度と関連して聴覚ガンマオシレーション低下、自発の方は変化なし
その結果、精神病ハイリスクの人と統合失調症発症早期の患者で、聴覚ガンマオシレーションが低下する一方、自発ガンマオシレーションは変化しないことを明らかにした。さらに聴覚ガンマオシレーションは、統合失調症発症早期の患者で、幻聴症状の程度と関連していた。自発ガンマオシレーションは、慢性期の患者や疾患モデル動物で上昇することが知られていたが、今回の結果により発症早期の患者では、聴覚ガンマオシレーションの低下の方が自発ガンマオシレーションの変化より先に生じることが初めて明らかになった。
発症や進行のメカニズム理解につながる結果、診断・治療法開発への応用に期待
今回の研究で、聴覚ガンマオシレーションが、発症早期の病態と強く関連することを明らかにした。また、聴覚ガンマオシレーションと幻聴の関連も見出した。「聴覚ガンマオシレーションは神経細胞の抑制性信号と興奮性信号のバランスが関連すると考えられており、今回の結果は、疾患の発症や進行のメカニズムを理解することに役立つ可能性があり、今後の診断、治療法開発研究への応用が期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京大学医学部附属病院 プレスリリース