指定難病ライソゾーム病の一種「ポンペ病」
富山大学は6月23日、ポンぺ病治療薬開発の鍵となる極めて有望な化合物の創製に成功したと発表した。この研究は、同大附属病院薬剤部の加藤敦教授、工学部生体機能性分子工学の豊岡尚樹教授、岡田卓哉助教、北里大学薬学部の田中信忠教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medicinal Chemistry」にオンライン掲載されている。
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指定難病のライソゾーム病の一種であるポンぺ病は、糖加水分解酵素(以下、グリコシダーゼ)の1つであるライソゾーム酸性α-グルコシダーゼが欠損することで細胞内にグリコーゲンが異常に蓄積する病気だ。同疾患に対する有効な低分子医薬品としては、現在臨床試験中の1-デオキシノジリマイシン(DNJ)が挙げられ、DNJはグルコースと極めて類似した構造をしている。このように同疾患の低分子医薬品の化合物デザインとしては「糖との相同性」、すなわち糖の構造を模倣することが有効な手段であると考えられてきた。
DABに修飾基導入の「5g」、ポンぺ病酵素活性への効果は現在臨床試験中のDNJと同等
今回の研究では、天然に存在する糖類似化合物の中でも、マメ科植物Angylocalyx boutiqueanusに含まれる1,4-ジデオキシ-1,4-イミノ-D-アラビニトール(DAB)に着目。DABは、D-フルクトースに類似した構造を有することから、さまざまなグリコシダーゼに対して阻害活性を発揮する一方、その選択性が課題であり、また、阻害の強さも中程度であることから、医薬品としての応用は全く期待されていなかった。しかし、DABの窒素原子上にさまざまな置換基、特にフェニルブチル基を導入すると、糖との相同性は低くなるものの、活性が劇的に向上し、また選択性も改善されることが明らかになった。
特に、DABの窒素原子上に(p-トリフルオロメチル)フェニルブチル基を導入した化合物5gにはポンペ病患者のライソゾーム酸性α-グルコシダーゼの活性を増加させる可能性が示唆され、その効果は現在臨床試験中のDNJと同等だった。
経口投与可能な低分子化合物5g、患者負担軽減や酵素製剤併用で相乗的な治療効果に期待
ポンペ病を始めとする希少疾患は、患者数が少ないために製薬メーカーによる治療薬開発が立ち後れている。現在、ポンペ病の治療法としては、欠損した酵素を外部から補充する酵素補充療法が実用化されているが、酵素製剤を2週間に1回、点滴より静脈注射を行う必要があり、さらに治療が一生続くため治療費が高額となり、患者の負担が大きくなる。また、継続的に高濃度の酵素を点滴するため、効果が徐々に失われてしまうという欠点がある。今回の研究により見出された化合物5gは「低分子化合物」であり、経口投与が可能であると考えられる。そのため、患者の負担軽減や酵素製剤との併用により相乗的な治療効果が期待される。研究グループは今後、化合物5gのポンペ病治療薬としての有効性について臨床研究を通して検証していくとしている。
また、今回の研究のもう1つのポイントは、ドッキングシミュレーションと試験管レベルでの構造―活性相関、さらに患者由来細胞を用いた検証実験を繰り返すことにより、従来見過ごされてきた酵素に存在する化合物の結合ポケットを発見した点にあるという。この発見をもとに、今後、より強力な候補化合物が見出される可能性が高いと考えられる、と研究グループは述べている。
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