化学療法誘発性末梢神経障害、がんの転帰に影響することも
東京大学医学部附属病院は6月23日、がん化学療法の副作用による手指の末梢神経障害に対し、微弱なノイズ振動を付加するリストバンドを作成し、そのリストバンドを装着すると指先の感覚と細かい動きが改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同病院緩和ケア診療部の住谷昌彦部長(准教授)、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの大住倫弘准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Experimental Brain Research」に掲載されている。
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化学療法誘発性末梢神経障害は、指先に痺れが生じ、身体の感覚を頼りにする指先の細かい動き(ボタンを留める、靴ひもを結ぶなど)に苦労することが多くある。これらの症状は、日常生活に悪影響を与えるだけでなく、症状が重症な場合は化学療法投薬量の減量や治療中止につながり、がんの転帰に影響する。
手首に微弱なノイズ振動が付加されるリストバンドを開発、装着で感覚-運動機能が向上
研究グループは今回、化学療法誘発性末梢神経障害に対して、微弱なノイズ振動を付加するリストバンドを作成した。有効性の検討は、手首に微弱なノイズ振動が付加されるリストバンドを装着しながら、指先の体性感覚の検知閾値を計測した。加えて、細い目標物をつまむ運動タスクを実施し、運動タスク実施中の指先の動きを計測し、指先の運動のスムースさを定量化した。
その結果、リストバンドを装着すると指先の感覚と細かい動きが改善することが明らかになった。また、このリストバンドから付加されるノイズ振動は、ヒトの感覚閾値よりも弱い刺激であり、リストバンドを装着している時に指先の痺れが増強することはなかった。
このような微弱なノイズ振動によってヒトの感覚-運動機能が向上することは「確率共鳴」と呼ばれる現象で、今回の成果は、この現象を化学療法誘発性末梢神経障害(ニューロパチー)のリハビリテーションに応用したものとなる。
2023年度中の医療機器承認の取得と製品化を目指す
研究成果により、化学療法の副作用などによって生じる指先の感覚鈍磨と細かな運動障害を解決するリハビリ手段が明らかになったため、手指のしびれをもつ患者の生活支援への発展的可能性を提案できるようになった。研究グループは、すでに医療機器メーカーと共に製品開発を進めており、2023年度中の医療機器承認の取得と製品化を目指している。
今後、ノイズ振動が足の感覚鈍磨や運動機能も高めることができるか検証
研究成果について、住谷准教授は次のように述べている。「がんの生存率が高くなっていくのと同時に、がん治療中の患者、がんサバイバー(経験者)の患者の生活機能の向上も重要視されてきている。新しい技術を臨床応用し、がん治療に向き合っている患者とがんに罹患した経験のある方々が日常生活で困っていることを少しでも解決したいと考えて診療と研究をしている。今回の研究で、確率共鳴という現象を利用すればがん化学療法の副作用による化学療法誘発性末梢神経障害による手指の感覚鈍磨と巧緻運動を改善できることを示した。この研究成果は、化学療法誘発性ニューロパチー以外の疾患、例えば、頸椎症や糖尿病性ニューロパチーによる手指の感覚鈍磨と巧緻運動の改善効果も確認できている。今後は、ノイズ振動が足の感覚鈍磨や運動機能も高めることができるのかを検証して、がんや脊椎疾患、神経疾患の方々の歩行機能やバランス能力などにも貢献したいと考えている」。
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