身体に残存する機能によるクラス分けと転倒状況の関連は検討されていない
広島大学は6月21日、東京2020パラリンピック競技大会における男子/女子車いすバスケットボールの試合中に生じる転倒状況を映像分析した結果、1試合あたり男子で平均22.5件、女子で10.5件生じ、過去大会の報告と比べて増加していたことがわかったと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科スポーツリハビリテーション学の大学院生の堤省吾氏、浦邉幸夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Physical Medicine and Rehabilitation」に掲載されている。
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車いすバスケットボール競技は、四肢欠損や脊髄損傷などの疾患を有するパラアスリートによるパラリンピック競技だ。これまで転倒に関する報告は1本あるが、パラリンピック大会の全試合(予選を含む)を対象とした調査は行われていない。さらに車いすバスケットボール選手は、身体に残存する機能により、点数が割り当てられる(クラス分け)が、クラス分けと転倒状況の関連も検討されていないままだ。危険な転倒の予防策を検討する情報を得るため、実際の試合映像を分析し、試合中に発生する転倒にどのような特徴があるのか、調査した。
男性の方が女性より約3倍多く転倒、男女とも前大会より増
研究では、東京パラリンピック大会中の車いすバスケットボール競技の全73試合を分析した。試合映像を分析するにあたり、車いすバスケットボール選手の転倒は「身体部位と床との接触」と定義した。全アスリートは、残存する身体機能に基づいたクラス分けにより、ハイポインター(残存機能:高い)とローポインター(残存機能:低い)の2群に分類されていた。
転倒件数は、東京パラリンピック大会車いすバスケットボール競技全体で合計1,269件発生していた。男子944件、女子325件であり、男性の方が約3倍多く転倒していた。1試合あたり男子で平均22.5件、女子で平均10.5件も生じていたことになる。男女とも前大会であるリオ大会を超える結果となった。
転倒の特徴が男女で相違、男子はローポインターもハイポインターと差がないほど激しい転倒
さらに、転倒の特徴がクラス分けにより異なるかを検証した。他者との接触の有無、反則の有無、ペイントエリアと呼ばれるゴールに近いエリアでの転倒といったこれらの特徴は、強度の激しい転倒であることが予想されるが、女子では、仮説通りハイポインターの方が激しい転倒をする割合がローポインターよりも高い結果となった。しかし男子では、ローポインターとハイポインターの間で有意な差が認められなかった。
東京2020パラリンピック大会での車いすバスケットボール競技において、男女間では転倒の特徴が異なり、男子では、特にローポインターにおいて残存機能が低いにも関わらず、激しい転倒を有する割合はハイポインターと明らかな違いがなかったことは、研究の大きな成果と考えられる。
男女、障がいの重さの分類ごとに転倒予防対策の検討が必要
研究グループは今後もパラアスリートを対象とした調査、研究を続けていく方針で、「重度の障がいをもつパラアスリートの転倒頻度の減少や危険な転倒予防のために、ルールの見直しや予防策を検討する必要が考えられる。今回得られた知見が、車いすバスケットボール選手の怪我の予防、ひいては競技が長く続けるために役立つことを期待したい」と、述べている。
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・広島大学 研究成果