パーキンソン病歩行障害への効果的な介入手法開発が喫緊の課題
名古屋市立大学は6月23日、パーキンソン病患者の歩行機能を改善する新しいリハビリテーション手法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の植木美乃教授、同研究科の野嶌一平教授(研究当時:信州大学医学部保健学科理学療法学専攻准教授)、同附属病院リハビリテーション科の堀場充哉技師長、立命館大学大学院先端総合学術研究科の美馬達哉教授、明治大学理工学部電気電子生命学科の小野弓絵教授、京都大学医学研究科の小金丸聡子特定准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurology, Neurosurgery, Psychiatry」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
パーキンソン病は、運動機能低下を特徴とする神経変性疾患。体の動きの減少や硬直、振戦、姿勢不安定性、歩行障害などの症状が現れる。現在、パーキンソン病の治療としては、ドーパミン製剤や深部脳刺激(DBS)が広く実施されているが、歩行障害に対する効果は限定的だ。特に、病状が進行するパーキンソン病後期では、歩行障害により日常生活が大きく制限される。そのため、歩行障害に対する効果的な介入手法の開発が喫緊の課題となっており、非侵襲かつ非薬物であるリハビリテーション(歩行リハ)が注目されている。
個別化クローズドループ脳電気刺激法を開発、パーキンソン病患者23人対象に効果を検証
研究グループは、一般的な歩行リハの効果を高めるため、経頭蓋電気刺激(tES)を基盤とした新たな歩行リハのシステムを開発。パーキンソン病患者の歩行機能障害の改善に適応した。tESは、微弱な電流を頭皮上から与える電気刺激療法であり、脳の可塑性を誘発できる可能性が示されている。そこで今回の研究では、患者の歩行リズムに同期した個別化したtES介入装置(クローズドループ脳電気刺激)を用い、パーキンソン病患者を対象に比較対照試験を実施した。
今回の研究では、パーキンソン病患者23人をランダムに実際の介入(クローズドループ脳電気刺激)群と偽の刺激を行う対照群に割り当てた。介入は、4分間の歩行リハを3回実施する介入を週2回、5週間(計10回)外来で実施した。歩行評価は、歩行速度、遊脚期時間、立脚期時間、歩幅などを介入前後に評価。また、すくみ足については質問紙を用いて評価した。
対照群と比較で、歩行速度・歩幅を有意に改善
研究の結果、介入群において、対照群と比較して歩行速度および歩幅が有意な改善を示した。さらに、歩行中の左右側の遊脚期時間の割合から算出した対称性指数(0.5が左右対称であることを示す)およびすくみ足症状に対する主観的な感覚についても、介入群で有意に改善したという。
非薬物・非侵襲のクローズドループ脳電気刺激、臨床応用に期待
今回の研究は、従来の治療では効果が限定的であったパーキンソン病患者の歩行障害に対して、個別の歩行パターンに合わせた(クローズドループ)脳電気刺激が効果的である可能性を示した。このシステムは、非薬物・非侵襲で安全性が高く、臨床応用が期待される。今後のさらなる研究の進展により、効果的な歩行リハの開発につながり、パーキンソン病患者の生活の質の向上や自立支援に貢献することが期待される。この成果は、パーキンソン病患者の歩行リハにおいて、脳内ネットワークを調整する介入手法の可能性を示しており、重要な知見であると考える、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・名古屋市立大学 プレスリリース