コロナ禍の自殺増加、若年女性で顕著である要因は失業等による経済的影響なのか?
横浜市立大学は6月22日、厚生労働省の死亡統計データを用いて2012年7月より10年間の自殺データを解析し、10~24歳の女児・女性で顕著に自殺数が増加していることを確認したと発表した。この研究は、同大附属病院化学療法センターの堀田信之センター長と慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の森口翔共同研究員の研究グループによるもの。研究成果は、「Lancet Psychiatry」に掲載されている。
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2020年にコロナ禍が始まり、女性や若者の自殺者数が増加傾向にあることが社会的に懸念されている。研究グループでは、2022年3月に、コロナ禍による自殺の増加について若年女性で特に顕著であるという研究結果の論文を発表。その要因として、20~30代の女性で顕著に自殺が増加しているのは、社会的基盤が弱い20~30代女性が失業等による経済的影響を受けやすいためではないかと推察していた。
厚労省の死亡統計データ、2012年7月~2022年6月までの10年間を解析
今回、研究グループでは、日本の厚生労働省から提供された死因別死亡数のデータを使用し、2012年7月~2022年6月までの10年間のデータを解析。これは死亡診断書に基づくデータベースで、日本国内の全ての死亡者をカバーしている。男女別に10〜14歳、15〜19歳、20〜24歳の3つの年齢カテゴリーごとに、6か月ごとの自殺者数をカウントした。パンデミック期(コロナ禍)と非パンデミック期(コロナ禍以前)を比較するためにMann-Whitney検定によるBonferroni補正後のP値0.05で統計的有意性を判断した。
男性はパンデミック前後で有意な変化なし、女性は10~24歳で有意に増加
対象期間の10年間で、男児・男性9,428人、女児・女性3,835人の死因が自殺と報告されている。男性においては、パンデミック前後で有意な変化は観察されなかった。一方、女性における自殺死亡はパンデミック時代に増加し、10~14歳、15~19歳、20~24歳のいずれの年齢階層で統計的有意性(P<0.05)が観察された。
女児・女性の自殺増加、失業よりも家庭内暴力・虐待の影響が顕在化した可能性
同研究において、就業年齢以下である10代前半でも女児・女性において自殺が増加していることが確認できたことから、女児・女性の自殺増加は、本人の失業以外の理由によることが想定される。一般に、女性は自殺企図(完遂しない自殺)が多く、男性は(完遂した)自殺が女性の2倍多いなど、自殺に関連する男女差が知られている。周囲の人との関係性を重んじる女児・女性の方が、コロナ禍により他人との接触が減少したことにより、精神的影響を受けている可能性があると推察される。また、女児・女性は家庭内暴力・虐待の対象になりやすいことも指摘されており、コロナ禍では自宅の滞在期間が長くなったことなどにより、その影響が顕在化した可能性が考えられるとしている。
若者の自殺予防、男女で異なるアプローチが必要
近年の自殺者数の増加は社会全体での問題となっており、早急な対策が必要だ。10代、20代の若者における自殺を予防するためには、感染対策や経済政策などだけではなく、男女で異なるアプローチが新たに必要ではないかと考えられる、と研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース