乳児において、内受容感覚と社会的認知能力はどう関連するのか
東京大学は6月19日、心拍を感じる、空腹を感じる等の身体の中の情報を感じ取る能力(内受容感覚)を生後6か月の乳児で測定し、内受容感覚に敏感である乳児ほど、養育者と見つめ合う(アイコンタクトする)ことを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、武蔵野大学教育学部幼児教育学科の今福理博准教授、東京大学大学院総合文化研究科の開一夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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これまでの研究で、内受容感覚には個人差があり、内受容感覚が他者の感情認識やアイコンタクトの敏感さなどの社会性に関わる能力(社会的認知能力)と関連することがわかっていた。しかし、生まれて半年の乳児期にも同様の関連が存在するかは未解明だった。そこで研究グループは、乳児の内受容感覚の個人差が社会的認知能力と関連するかを調べるために、実験を行った。
心拍とモニター上の図形の動きを同期/非同期させ、乳児の内受容感覚の個人差を測定
研究には、生後6か月の乳児とその養育者である母親25組が参加した。乳児の心電図のR波(上向きの幅の狭い波)に同期/非同期して動く図形(同期図形/非同期図形)をモニター上の左右に提示し、その間の視線の動きを視線自動計測装置(アイトラッカー)により測定した。養育者にも同じ調査を行った。その結果、乳児は同期図形に比べて非同期図形を長く注視し、養育者は非同期図形に比べて同期図形を長く注視することがわかった。
乳児研究では「知覚的な感度」を計測する場合に、乳児が馴染みのない刺激に注意を向ける性質を利用する。今回の研究では同期図形(自分の心拍とタイミングが合った刺激)への注目よりも、非同期図形(自分の心拍とタイミングがずれた刺激)への注目をもって、心拍と図形の動きの同期性に対する感度の指標とした。そして、乳児が非同期図形を注視した時間の割合を「内受容感覚の敏感さ」として評価した。
内受容感覚に敏感な乳児ほど、養育者と遊ぶ時にアイコンタクトが多い
また、同じ乳児と養育者で遊ぶ様子を3分間記録し、両者の「社会的行動(アイコンタクト、発声、タッチなど)」を測定して評価し、内受容感覚と社会的認知能力の関連を調べた。その結果、内受容感覚に敏感である乳児ほど、養育者と遊ぶ時にアイコンタクトを多くすることがわかった。さらに、乳児の内受容感覚の個人差と関連するアイコンタクトが、養育者の笑顔を介して引き起こされていることが示唆された。
「ヒトの社会性発達に内受容感覚が関与する」という仮説を支持する研究成果
今回の研究成果は、ヒトの社会性と強く関連すると考えられるアイコンタクト行動が、乳児の内受容感覚という身体の中の感覚を基盤とする可能性を示すものだ。「乳児の内受容感覚が社会的認知能力と関連する可能性を世界で初めて実証した。ヒトの社会性発達に内受容感覚が関与するという仮説を支持し、人間理解の新しい視点を提供するものだ」と、研究グループは述べている。
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