高度な放射線治療に効果の高い患者を見分ける数理モデルと国際規格が必要
北海道大学は6月22日、国際標準化機構(ISO)の保健医療情報(Health Informatics)の標準化を扱う技術委員会において、数理モデルで予測した放射線治療予後予測情報のレポートに係る新しい国際規格を提案し、策定を進めたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の白土博樹教授、小橋啓司特任准教授らの研究グループによるものだ。
放射線治療は通常のX線治療法に加え、強度変調放射線治療や粒子線治療などのがんへの放射線集中性を高められる治療装置の登場により、個々の患者のがんの種類や位置、広がりに応じて、安全性と治療効果を考慮して治療装置を使い分けることが可能となってきた。近年では、日々患者の体形変化に追従して、がんへの放射線集中度をより高められる適応放射線治療技術も登場し、副反応を発する可能性が高い臓器に隣接するがんも、より確実かつ安全に治療できるようになってゆくと期待されている。
しかしながら、高度な放射線治療は一般的に高コストであるため、医療リソースの効率的利用の観点から、高度な放射線治療を受けた場合に得られる恩恵の高い患者、ないしは患者集団を適切に見分ける必要性も高まっており、数理モデルによる放射線治療予後予測の活用が世界の国々や日本で検討され始め、学術的な研究が進められている。同大ではさらに、予測情報を安全に臨床で利用するために、予測情報のトレーサビリティや相互運用性の向上も不可欠であると考え、放射線治療予後予測情報の医療情報側面に係る国際規格の必要性を認識するようになった。
個々の患者の予後予測情報レポートデータに関する技術報告書として新国際規格が正式発行
このような背景のもとで、研究グループは、2017年より経済産業省、一般社団法人日本画像医療システム工業会(JIRA)の支援を受け、リーダーを務めるプロジェクトにおいて海外のエキスパートと協力して、新国際規格の策定を進めてきた。
この新国際規格は、個々のがん患者が所定の放射線治療計画に基づいて治療を受けた場合に予測される、TCPやNTCPなどの放射線治療予後予測情報をレポートするためのデータセットおよびデータ構造に関する技術報告書としてまとめられ、2023年4月に国際投票で有効投票数の93%の賛成を得ることができた。そして、この新国際規格(ISO/TR24290:2023 ed.1,Health Informatics—Datasets and datastructure for clinical and biological evaluation metrics in radiotherapy)は、2023年5月30日にISOの規格として正式発行され、国際的な活用が可能となった。なお、この国際規格は、既にオンライン販売が開始されている。
個別の最適な放射線治療法選択によって多くの患者に恩恵が届けられることを期待
「この国際プロジェクトにより策定された新規格が活用されることで、将来、治療予後予測に基づく個別最適な放射線治療法選択が進展し、限られた医療リソースの中でより適切に、より多くの患者に高度放射線治療の恩恵が届けられるようになることが期待される」と、研究グループは述べている。
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