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脳梗塞に対する新しい細胞療法を開発、簡単な操作で治療用細胞を製造可能-新潟大ほか

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2023年06月22日 AM11:17

単一物質を標的とできないため治療困難な脳梗塞、細胞療法の開発が期待される

新潟大学は6月20日、脳梗塞に対するヒト末梢血単核球を用いた新しい細胞療法の作用機序を明らかにしたと発表した。この研究は、同大脳研究所脳神経内科学分野の大津裕助教、畠山公大助教、金澤雅人准教授、岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野の下畑享良教授、神戸医療産業都市推進機構医療イノベーション推進センターの尾前薫氏(TRI専門職)、LHS研究所の福島雅典代表理事らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neurotherapeutics」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳卒中は、日本における死因の第4位、寝たきりの原因の第2位となっている。高齢化社会を迎え、脳卒中患者は急増し、3人に1人が脳卒中を発症する時代に突入している。脳卒中の中でも血管が詰まることで発症する脳梗塞は、近年増加し後遺症に苦しむ患者も多く、治療にかかる医療費は増加の一途をたどっている(日本では年間2兆円)。

脳梗塞慢性期の治療は、再発の予防が主体で、機能回復療法はリハビリに限られる。しかし、リハビリでも十分な機能回復を得られず、後遺症をもつ患者が多くいる。脳梗塞後の脳の障害のメカニズムは非常に複雑で、さまざまな物質が関わるため、単一の物質を標的とする治療では十分な効果を期待することは難しい。また脳には血液脳関門という血管内の物質を脳に入りにくくするバリアがあり、薬剤が到達しにくいという問題がある。そこで現在、細胞投与により脳梗塞を治療する手法()の研究が盛んに行われている。

低酸素・低糖刺激したラット単核球投与に後遺症改善効果、ヒト由来の単核球ではどうか

これまで、研究グループは血液中に存在する単核球に着目して研究を行ってきた。通常の単核球投与では治療効果は認めないが、ラットの単核球を脳梗塞に類似した環境(酸素とブドウ糖の濃度が低下した状態)に短時間曝露させる、という簡単な刺激により、単核球が持つ組織を修復する能力が活性化することを示した。また、刺激した単核球を脳梗塞ラットに投与することにより、脳梗塞後遺症が改善することを示してきた。採血のみで細胞を採取できるため、患者への負担が少ない点、特殊な細胞培養施設を必要としない点で、従来の細胞療法(iPS細胞や培養した幹細胞など)に比し、格段に簡便かつ低コスト化した細胞療法の開発につながると考えられる。しかし、ヒト由来の単核球にも同様の治療効果があるのか、また効果があるとすればそれはどのような作用機序によるものか、明らかではなかった。

投与ヒト単核球は脳内に入り込みミクログリアに情報伝達、新しい血管や神経軸索を再生

そこで研究グループはヒト単核球に低酸素・低糖刺激を与え、脳梗塞発症後1週間が経過したラットに細胞を投与した。その結果、細胞がバリアを超えて脳内に入り込み、脳梗塞病変における新しい血管の再生、および神経軸索の再生が促進され、脳梗塞後遺症である運動感覚障害の回復が促進されることを明らかにした。また作用機序として、投与した単核球が脳内に存在するミクログリアという細胞に情報を伝達することにより、脳内が組織保護的な環境に変化することを明らかにした。

エクソソーム中のマイクロRNA-155-5p低下で、神経再生などに関わるHIF-1α増加を維持

具体的には、細胞間の情報伝達に、細胞から分泌される直径50~150nmの顆粒状物質エクソソームが関与し、エクソソーム中のマイクロRNA-155-5pを低下させることが脳内環境を変化させることを明らかにした。

血管新生、神経再生に関わる血管内皮増殖因子(VEGF)は、脳梗塞後産生されるが、速やかに抑制される機構がある。-155-5pが低下することで、低酸素誘導因子であるHIF-1αやその下流に位置するVEGF増加が維持される。さらにその結果として、単核球やミクログリアの脳組織を修復する能力が活性化され、脳内で血管新生が促され、神経再生が生じ、治療効果を発揮することを明らかにした。

実用化により、患者自身の細胞を用いた安全性の高いオーダーメイド医療も可能に

今回、ヒト単核球に簡単な刺激を行うことにより、単核球が組織を修復する能力を活性化することを明らかにした。また、この細胞を脳梗塞後遺症のみられる患者に投与することで、機能回復が促進される治療法となりうることを示した。また、機能回復の機序として、投与した単核球が脳内のミクログリアに情報を伝達し、脳内の環境を変化させることを示した。細胞療法は効果的な治療であるものの、その作用機序が明確化されていないものが多い。今回、その作用機序として、末梢血単核球同士、さらに投与した末梢血単核球から脳内ミクログリアに情報を伝達するものとして、エクソソーム中のマイクロRNA-155-5pが関与することを明らかにした。

この治療が実用化されれば、患者自身の細胞を用いた「自家細胞療法」が可能になり、安全性の高いオーダーメイド医療となる。簡単な操作で細胞を製造できるため、特別な細胞培養施設をもたない一般病院においても治療を普及できる可能性がある。「現在、採血から細胞の分離、低酸素・低糖刺激までを一貫して行える装置を、産学共同で開発中で、技術は、米国、欧州、中国の特許取得、国際特許出願を行い、臨床応用することを目指して研究を進めている」と、研究グループは述べている。

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