成人FPIE、原因として甲殻類が多いことが海外で報告されたがアジアでは未報告
草加市立病院は6月21日、日本を含むアジアではまだ報告されていない成人の食物蛋白誘発性胃腸炎(Food protein induced enterocolitis syndrome:FPIES)について、その割合と、通常の即時型食物アレルギー(Immediate-type food allergy:FA)との違い関する研究結果を発表した。この研究は、同病院消化器内科の渡辺翔医長、国立成育医療研究センター好酸球性消化管疾患研究室の野村伊知郎室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Allergy, Asthma & Immunology」に掲載されている。
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FPIESは、反復する嘔吐や腹痛、下痢など消化器症状のみを呈する非IgE依存性食物アレルギーとされる。小児にて近年注目されているが、小児における内視鏡を含む各種検査が難しいこともあり、病態はほとんど未解明だ。成人でもFPIES例が潜在的に相当数存在し、原因として甲殻類が多いことがスペインやカナダなど海外で近年報告されたが、日本を含むアジアでは未報告だ。
FPIESは、皮膚の発疹や呼吸器症状といった消化器症状以外の典型的なアレルギー症状に乏しい。そのため、なかなか食物アレルギーを疑われず、多くの患者が診断までに長期間、多数の発作を経験しているとされている。日本では成人FPIESの疾患概念が普及しておらず、また専門として診察する部門も確立していない。そのため、成人FPIES患者が適切な診断・治療を受ける機会がないのが現状だ。また、小児においてFPIESの重症例はFAと治療が全く異なることが知られており、これらの似たような疾患を適切に鑑別・診断することは救急医療の観点から極めて重要だと考えられる。
成人甲殻類アレルギー患者のFPIES有病率を調査、成人FPIESとFAの臨床的な違いを評価
そこで、研究グループは成人甲殻類アレルギー患者におけるFPIESの有病率と現状の問題点を明らかにし、成人FPIESとFAの臨床的な違いを評価することを目的に、日本初の疫学的研究を行った。今回の研究では、草加市立病院において甲殻類アレルギーと考えられる成人患者73人に対し、FPIESの診断基準や症状に関して電話インタビューを実施。成人FPIESの診断基準は海外からの報告と小児FPIESの国際ガイドラインより決定した。
FPIESの診断基準は、「1:原因食材の摂取で腹部の症状のみ(吐き気、嘔吐、腹痛、下痢症状)誘発される」「2:原因食材摂取後、1~6時間経過してから症状が出現する」「3:原因食材除去により症状は完全に消失する」「4:原因食材ないしは同一グループの食材摂取により2回以上発作を経験している」「5:以前、原因食材を無症状で摂取できていた」の5条件を満たすものを成人FPIES例と定義した。
成人FPIES、FAと比べて腹部症状出現までの時間・症状の持続時間が長い
研究の結果、甲殻類アレルギーと考えられる成人73人の内、8人(11%)がFPIES、53人がFAと診断された。これは、甲殻類を食べてなんらかのアレルギー症状を引き起こす成人の中に、FPIESが潜在的に相当数存在することを示唆している。
また、成人FPIESはFAと比べて、腹部症状が出現するまでの時間と症状の持続時間が長い(中央値20.8時間)ことも判明。FPIES患者は強い腹痛や腹部の張り・苦しさを伴う胃腸炎様発作を何度も経験しており、半数のFPIES患者が発作中に死の恐怖を感じていたという。それにも関わらず、病院で適切な診療を受けていたのはFPIES患者の約3分の1だった。
成人FPIESの原因食材は大型の海老が多い、患者62.5%は何らかの甲殻類を摂取可能
その他、症状の原因となる甲殻類の種類にも着目。成人FPIESの原因食材として伊勢海老やオマール海老などの大型の海老が多いこと、また患者の62.5%は全ての甲殻類を除去しているわけではなく、何らかの甲殻類を摂取可能であることがわかった。
診断ガイドライン作成・成人FPIES診断アルゴリズム策定に期待
今回の研究は成人のFPIESの臨床像を検討した日本初の報告だ。診断ガイドライン作成と救急医療における成人FPIESの診断アルゴリズム策定に重要な役割を果たすことが期待される、と研究グループは述べている。
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・草加市立病院 プレスリリース