ALS、まだ同定されていない原因遺伝子が多くある
広島大学は6月20日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新規原因としてLRP12遺伝子の5’非翻訳領域のCGGリピート伸長変異を同定したと発表した。この研究は、同大原爆放射線医科学研究所分子疫学研究分野の川上秀史教授、久米広大准教授、独立行政法人国立病院機構呉医療センター脳神経内科の倉重毅志医長、関西医科大学iPS・幹細胞応用医学講座の六車恵子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Human Genetics」に掲載されている。
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ALSは、運動神経の変性により、四肢の筋力低下、構音障害、嚥下障害、呼吸筋麻痺をきたす神経変性疾患。これまでに30個以上の原因遺伝子が報告されているが、これらの原因遺伝子変異を持っていないALS患者は多く、まだ同定されていない原因遺伝子は多く存在すると考えられている。また、ALSの病理学的な特徴であるリン酸化TDP-43の細胞質局在は病態の中心とされ、盛んに研究されてきたが、ALSの病態は完全には解明されていない。
新規原因リピート伸長は100リピート以下、眼咽頭遠位型ミオパチーより短い
今回、研究グループは、家族性ALSの2家系を対象にロングリードシーケンサーによる全ゲノム解析を実施。その結果、ALS発症者がLRP12遺伝子の5’非翻訳領域のCGGリピート伸長を有していることを見出した。このリピート伸長をALS患者1,039人に対してスクリーニングを行い、3人にリピート伸長を認めたという。
東北大学コホートの家族性ALS40家系を用いたスクリーニングでは、2家系がリピート伸長を有していることが明らかになった。また、これらの患者のCGGリピート長が100リピート以下であり、通常100リピート以上である眼咽頭遠位型ミオパチー(OPDM)患者より短いリピート伸長であることを発見した。
LRP12遺伝子のRNA発現量、ALS患者の筋で増加傾向
続いて、リピート長の違いがどのような機序でALSとOPDMの違いを生み出すのかを明らかにするため、筋およびiPS細胞から分化させた運動神経を用いた解析を実施。ALS患者の筋では、LRP12遺伝子のRNA発現量は増加する傾向にあり、筋および運動神経では、ALSがOPDMより多くのRNA fociを形成していた。また、ALS患者由来の運動神経のみに細胞質内のリン酸化TDP-43を認めたとしている。
リピート長の違いがALSとOPDMの発症機序の違いに
一方、OPDM患者由来の筋では、筋の機能維持に重要と考えられているMBNL1タンパクがリピートRNAと共に蓄積。この所見はALS患者の筋では認めなかったという。以上のように、LRP12遺伝子のCGGリピート伸長がALSの原因となること、リピート長の違いがALSとOPDMそれぞれを異なる機序で発症させることが明らかになった。
一部のALSに対する遺伝子治療のターゲットとなる可能性
今回の研究で同定したLRP12遺伝子のCGGリピート伸長に対する遺伝子治療の開発を行うことにより、ALSの一部が治療可能となる可能性がある。また、CGGリピート伸長がリン酸化TDP-43の細胞質内局在をきたす機序を解明すれば、LRP12遺伝子以外の原因によるALSの病態の解明や治療法の開発につながる可能性があると考える、と研究グループは述べている。
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