脳卒中リハビリ、手指使用量を低拘束に常時計測する方法がなかった
東京農工大学は6月19日、手指の使用量を常時計測可能な指輪型ウェアラブルデバイスを開発し、脳卒中片麻痺患者の日常生活下の手指使用量と脳卒中リハビリテーションで一般的に用いられる複数の臨床評価指標の関係について調査した結果を発表した。この研究は、同大大学院工学研究院先端情報科学部門の近藤敏之教授と同大大学院工学府電子情報工学専攻博士後期課程在籍・湘南慶育病院理学療法士の山本直弥氏、同大大学院工学府情報工学専攻博士前期課程修了の松本崇斗氏、同大大学院工学府の須藤珠水特任助教、同大大学院工学研究院先端情報科学部門の宮下恵助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation」に掲載されている。
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脳卒中患者のリハビリテーションでは、日常生活における麻痺肢の積極的な使用が機能回復に重要であることが知られている。実際、リハビリテーションの現場では、訓練が日常生活動作の改善にどの程度寄与しているかを定量評価するために、腕時計型の加速度計を両手首に装着して麻痺側・非麻痺側の上肢使用量を計測・評価するシステムが導入されている。しかし、つまむ、握る、つかむなど日常生活動作の改善に重要と考えられる手指使用量については、低拘束に常時計測する方法がなかった。
指輪型ウェアラブルデバイスを開発、亜急性期脳卒中片麻痺患者20人で計測
今回の研究では、手指使用量を常時計測するために、第2関節の屈曲角度を赤外線近接センサーで計測する指輪型ウェアラブルデバイスを開発。研究では、湘南慶育病院の回復期病棟に入院中の亜急性期脳卒中片麻痺患者20人(全員右利き、うち右麻痺10例、左麻痺10例)の協力の下に実施した。対象者は左右の手に指輪型デバイスを装着し、リハビリテーション訓練時を除く終日(9時間)に渡って左右の手指と上肢の使用量を常時計測するとともに、脳卒中リハビリテーションで臨床評価指標として一般的に用いられるFMA-UE(Fugl-Meyer Assessment for Upper Extremity)、STEF(Simple Test for Evaluating Hand Function)、ARAT(Action Research Arm Test)、MAL(Motor Activity Log)による評価を併せて実施。計測データの解析には、手指や上肢をどれだけ動かしていたかを反映する「使用量」に加えて、使用量の個人差を正規化するために健常側に対する麻痺側の使用量の比率である「使用率」を用いた。
手指使用率と運動機能検査に基づく臨床評価指標の間に有意な正の相関
実験の結果、指輪型デバイスで計測した手指使用率と運動機能検査に基づく臨床評価指標であるFMA-UE、STEF、ARATの間に有意な正の相関を確認。一方、インタビュー形式による患者の主観報告に基づく臨床評価指標であるMALとの間には手指使用量・使用率ともに相関が認められなかった。
臨床評価指標との相関は、手首加速度計の上肢使用率<指輪型デバイス計測の手指使用率
また、手首の加速度計で求めた上肢使用率よりも、今回開発した指輪型デバイスで計測した手指使用率の方が、臨床評価指標のFMA-UE、STEFとより強い相関を示すことが示された。以上の結果は、開発した指輪型デバイスで計測される手指使用率を用いることで、運動機能検査に基づく臨床評価指標(FMA-UE、STEF、ARAT)をより正しく推測できる可能性を示している。
患者や療法士の主観に偏らないリハビリ介入戦略で、重要な評価指標として期待
脳卒中麻痺患者の日常生活における手指使用量を低拘束に常時計測することは、今後の脳卒中リハビリテーションの現場において、患者や療法士の主観に偏らないリハビリテーション介入戦略を検討する上で重要な評価指標の提供につながる可能性が期待される、と研究グループは述べている。
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・東京農工大学 プレスリリース