遺伝性網膜疾患の治療法として期待されるオプトジェネティクス
慶應義塾大学は6月19日、光受容を制御する神経回路を精査する中で、光遺伝学(オプトジェネティクス)を利用した視覚再生遺伝子治療の効果を向上させる手法を発見し、これにスターバーストアマクリン細胞が関わっていることを世界で初めて確認したと発表した。この研究は、同大医学部眼科学教室の栗原俊英准教授、堅田侑作特任助教、先端医科学研究所・脳科学研究部門の田中謙二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy – Methods & Clinical Development」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
網膜色素変性症をはじめとする遺伝性網膜疾患はいまだ治療法のない主要な失明疾患で、世界で200万人以上がこの疾患で苦しんでいる。しかし、近年さまざまな技術を応用した治療法の開発が活発に進められている。その一つがオプトジェネティクスという技術である。これを応用して病気の人の目の中でも働くことのできる光センサー遺伝子を送り込んで視覚を再生できることが知られており、現在海外では治験も複数行われている。しかし、健常人と同等の見え方を再生させることは現状では難しく、改良法の研究が求められている。
網膜神経節細胞とスターバーストアマクリン細胞での光センサー発現マウス、視力回復を確認
今回、以前研究グループが開発したKENGE-tetシステムによる遺伝子改変マウスを利用して光受容を制御する神経回路を精査し、視覚再生遺伝子治療の効果とそのメカニズムの研究を行った。
視細胞は失いながらも網膜神経節細胞でのみ光センサーが発現するHtr5b-tTA::tetO-ChR2(5B)マウスと、網膜神経節細胞とスターバーストアマクリン細胞で光センサーが発現するChrm4-tTA::tetO-ChR2(M4)マウスを用いて実験を行ったところ、M4マウスでは5Bマウスにくらべて50%以上の神経の光応答の増強が確認され、5Bマウスでは視力まで回復できなかったのが、M4マウスでは視力を取り戻していることが確認された。
神経同士の連絡通路であるgap結合を阻害すると視覚再生効果の増強が消失
そして、この光応答の増強効果はgap結合という神経同士の連絡通路を阻害すると消失することから、スターバーストアマクリン細胞がgap結合を介して視覚再生効果を強化していることが明らかにされた。
「今後、視覚再生遺伝子治療の実用化に応用されることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース