家族性高コレステロール血症と頭蓋内動脈狭窄/閉塞症の関連は未解明
国立循環器病研究センターは6月14日、家族性高コレステロール血症患者における、RNF213遺伝子多型と頭蓋内動脈狭窄/閉塞症との関連を明らかにしたと発表した。この研究は、同センター脳神経内科の野田浩太郎専門修錬医、服部頼都医長、猪原匡史部長、大阪医科薬科大学循環器センターの斯波真理子特務教授、名古屋大学環境医学研究所内分泌代謝学の堀美香講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「JACC: Asia」に掲載されている。
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東アジアでのもやもや病の創始者多型として同定された、RNF213 p.R4810K多型は、日本における頭蓋内動脈狭窄/閉塞症とも強い関連があることが知られている。一方で、国内の健常者の1.5~2.5%がこの多型の無症候性キャリアであり、頭蓋内動脈狭窄/閉塞症に至るには何らかの遺伝学的因子または環境因子などの付加的要因が必要と考えられている。
家族性高コレステロール血症(FH)は、日本で最も頻度の高い遺伝性疾患の一つで、LDLR遺伝子変異、PCSK9遺伝子変異などにより、高LDLコレステロール血症、心筋梗塞・狭心症などの冠動脈疾患をもたらすことでよく知られている。しかしながら、FHと脳血管障害との関連は定まっていない。一方、FH患者の中でも一定数で脳梗塞を発症する患者を経験することがある。
167人のFH患者を調査、頭蓋内動脈狭窄/閉塞病変とRNF213 p.R4810K多型に強い関連
研究グループは、FH患者の中で、RNF213 p.R4810K多型陽性者と陰性者の頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を含めた脳血管障害の頻度を調査し、FHとこの多型との関連を検討した。2005年~2020年にかけて、国立循環器病研究センターでFHと診断され、かつ、頭部MRAを撮影された患者を調査した。FHの原因遺伝子であるLDLR遺伝子とPCSK9遺伝子の変異と、もやもや病創始者多型であるRNF213 p.R4810K多型を判定、さらに頭部MRAを読影し、内頚動脈(ICA)、前大脳動脈(A1)、中大脳動脈(M1/M2)、脳底動脈(BA)の頭蓋内脳動脈狭窄/閉塞症の有無の調査を行った。
今回の研究では、167人のFH患者を解析し、104人がLDLR遺伝子変異、22人がPCSK9遺伝子変異を有しており、167人のFH患者のなかで6人がRNF213 p.R4810K多型を保有していた。このRNF213 p.R4810K多型保有者のうち5人(83.3%)、非保有者のうち56人(34.8%)で頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を認めた(p=0.025)。この結果は、血管危険因子の高血圧症、糖尿病やMRAが撮影された年齢、性別で調整した多変量精確ロジスティック回帰分析を行ったところ、この多型は、頭蓋内動脈狭窄/閉塞症の独立した予測因子だった(オッズ比5.44、95%信頼区間1.10–無限大、p=0.019)。頭蓋内動脈狭窄/閉塞病変数もRNF213 p.R4810K多型保有者で有意に多く(本多型保有者:中央値3病変[四分位2–6]、非保有者:1[1–2]、p=0.01)、前方循環系(ICA、A1、M1/M2)にのみ狭窄病変を認めた。FH患者における頭蓋内動脈狭窄/閉塞病変は、RNF213 p.R4810K多型と強い関連があることが明らかとなった。
脂質異常症治療薬でこの多型による頭蓋内血管狭窄/閉塞症が予防できる可能性を検討
今回の研究により、RNF213 p.R4810K多型を保有するFH患者では、高頻度(83.3%)に頭蓋内動脈狭窄/閉塞病変を保有しており、FHによる持続的な高LDLコレステロール血症の暴露とRNF213 p.R4810K多型による血管内皮細胞傷害、あるいはFH原因遺伝子変異そのものとこの多型の遺伝子相互作用で、頭蓋内動脈狭窄/閉塞症が発症したと考えられる。
「既報告でFHではないRNF213 p.R4810K多型保有者の中で約23%で頭蓋内動脈狭窄/閉塞症を発症するとされている。今回の研究の結果を併せると、RNF213 p.R4810K多型保有者の頭蓋内動脈狭窄/閉塞症の発症の環境因子の1つとして、脂質異常症が示唆されたため、脂質異常症治療薬で本多型による頭蓋内血管狭窄/閉塞症が予防できる可能性がある。今後、脂質異常症治療薬を用いた臨床試験を計画している」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース