抗リン脂質抗体症候群の原因となる自己抗体、不妊症との関連は?
山梨大学は6月15日、不妊症患者において、血栓症などの原因となる新規自己抗体ネオセルフ抗体陽性患者が存在することを世界で初めて証明したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院産婦人科の小野洋輔特任助教、吉野修教授、医療法人渓仁会手稲渓仁会病院不育症センター長の山田秀人氏(北海道大学客員教授)、神戸大学医学部附属病院総合周産期母子医療センターの谷村憲司准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Reproductive Immunology」にオンライン掲載されている。
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少子化が加速する日本において、不妊症に対する治療法の向上は必須課題だ。特に、体外受精・胚移植を受ける患者の中で良好な受精卵を繰り返し子宮内膜に移植しても妊娠が成立しない難治性不妊は、反復着床不全と呼ばれる。反復着床不全に対する治療法の開発は急務だが、有効な治療法が定まっていない。
ネオセルフ抗体(抗β2GPI/HLA-DR抗体)は、2015年に神戸大学と大阪大学の共同研究によって、血栓症や流産、妊婦の生命を脅かす妊娠高血圧症候群などの病気を引き起こす抗リン脂質抗体症候群という病気の原因となる新しい自己抗体として発見された。同研究グループらにより、原因不明の流産を繰り返す不育症患者においても、流産を引き起こす原因となることが示されている。ネオセルフ抗体は、子宮内膜の血管に存在し、血栓症の原因となると考えられている。そのため、着床時にも関与している可能性が考えられ、今回の研究では不妊症患者において検討された。
不妊症患者224人のうち17.9%がネオセルフ抗体陽性
今回の研究では、不妊症外来を受診した不妊症カップルに同意を得て、ネオセルフ抗体を測定し、各患者の不妊症リスク因子、不妊治療歴について調べた。ネオセルフ抗体は、神戸大学と大阪大学が考案した手法(特許技術)で血液検査をすることで、測定した。研究の結果、不妊症患者224人のうち17.9%がネオセルフ抗体陽性と判明した。
子宮内膜症合併でネオセルフ抗体陽性リスク3倍
また、ネオセルフ抗体を有する女性では不妊症のリスク因子である子宮内膜症の合併率が32.5%と、抗体を持たない女性の17.4%よりも有意に高いことがわかった。どの不妊症リスク因子が、ネオセルフ抗体陽性と関連するかを多変量解析で調べた結果、子宮内膜症が合併すると、ネオセルフ抗体陽性になるリスクが3倍になることがわかった。不妊症を呈する子宮内膜症患者の子宮内膜症組織には、ネオセルフ抗原が発現していることが、免疫染色でも確認された。
陽性者の反復着床不全割合はART患者の43.5%、陰性者より有意に高い
体外受精・胚移植などのART(Assisted Reproductive Technology)を受けた女性148人の中では、15.5%がネオセルフ抗体陽性と判明。ネオセルフ抗体陽性者では、反復着床不全(胚移植を3回以上施行しても妊娠が成立しない場合と定義)患者の割合が、ART患者の43.5%であり、陰性者の20.8%より有意に高いことが明らかとなった。ART患者においてどのリスク因子が、ネオセルフ抗体陽性と関連するかを多変量解析で評価すると、反復着床不全既往のある患者は、ネオセルフ抗体陽性となるリスクが2.9倍高いことが明らかになった。
着床時、ネオセルフ抗原が抗体によって攻撃を受けることで着床障害の可能性
ネオセルフ抗原は、子宮内膜に存在することが報告されている。そのため、着床時にネオセルフ抗原が、抗体によって攻撃を受けることで着床が障害されることが予想される。以上のことからネオセルフ抗体は、不妊症、子宮内膜症、反復着床不全の病態生理と関連し、不妊症の新たな治療ターゲットとなる可能性があるとしている。
ネオセルフ抗体陽性者がどのような妊娠転帰をとるか、前向きな研究が必要
今回の研究では、患者の背景や不妊治療歴からネオセルフ抗体が不妊症(反復着床不全)や子宮内膜症と関連していることが、初めて示唆された。今後はネオセルフ抗体陽性者が、どのような妊娠転帰をとるかについて前向きな研究が必要だ。ネオセルフ抗体は血栓症を来す可能性があり、抗血小板療法(低用量アスピリン療法)や抗凝固療法(ヘパリン療法)などが有効な可能性がある。将来的に不妊症や挙児希望のある子宮内膜症患者のネオセルフ抗体を測定し、陽性者に妊娠前から抗血小板療法や抗凝固療法行うことで、妊娠率や生児獲得率を改善させ、ネオセルフ抗体を測定することがプレコンセプションケアにつながる可能性がある、と研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース