従来のホルモン剤内服や手術療法は副作用や再発率に課題
名古屋大学は6月15日、子宮内膜症の発症を促す細菌「フソバクテリウム」(Fusobacterium)を同定し、抗生剤治療が子宮内膜症の非ホルモン性新規治療薬となる可能性を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科・腫瘍生物学分野の近藤豊教授、同大医学部附属病院産婦人科の村岡彩子助教、梶山広明教授、同大大学院医学系研究科・神経遺伝情報学分野の大野欽司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Translational Medicine」に掲載されている。
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子宮内膜症は、生殖年齢女性の約10%が罹患し、生涯に渡り骨盤痛、不妊症、がん化などさまざまな問題を引き起こす疾患である。研究段階において、その疾患発症メカニズムは、月経血の逆流が一要素として考えられている。そのため、現時点での子宮内膜症の治療法はホルモン剤内服による偽閉経療法や手術療法での病巣切除であるが、どちらの治療も薬剤の副作用や術後の高い再発率などが問題となっている。また、どちらの治療法も妊娠に与える影響が大きく、妊娠希望の女性にとって安全に使用できる非ホルモン性の新規治療戦略が切望されている。そこで、研究グループは、子宮内膜症の発症メカニズムを解明し、妊娠希望の女性も使用可能な新規治療標的を見つけることを目的に、研究を行った。
子宮内膜症病変に高発現するTAGLN、筋線維芽細胞の性質を示す
研究グループはまず、正常な子宮内膜線維芽細胞と子宮内膜症病変部の線維芽細胞の遺伝子発現プロファイルを解析した。その結果、子宮内膜症病変部の線維芽細胞でトランスジェリン(transgelin;TAGLN)というタンパク質の発現が顕著に上昇していることがわかった。また、TAGLNは子宮内膜症の発症に重要な増殖、遊走、腹膜中皮細胞への接着を亢進させる筋線維芽細胞の性質を示すことを発見した。
患者の子宮内に有意に高発現するFusobacteriumを発見
次に、TAGLNの発現誘導因子としてTGFβに着目し、TGF-β産生細胞として子宮内膜症患者の子宮内に有意にM2マクロファージの浸潤があることを発見した。さらに、マクロファージの浸潤量の差を説明するため、子宮内膜微小環境内の細菌叢解析を実施。子宮内膜症患者の子宮内に有意に発現の多いFusobacteriumを発見した。この細菌は口腔内や腸管内にも存在し、大腸がんの発症に関与する菌体として知られている。
Fusobacteriumに有効な抗生剤治療は内膜症病変の形成を抑制、モデルマウスで
Fusobacteriumが子宮内膜症病変形成に関与するかを調べるため、内膜症モデルマウスを用いて検証した。マウスの子宮内にFusobacteriumを感染させると、病変形成の個数および重量が増悪し、さらに、感受性のある抗生剤でFusobacteriumを除菌すると病変形成が改善することがわかった。
Fusobacterium感染<子宮内膜微小環境の変化<TAGLN高発現の線維芽細胞
また、細胞実験も実施したところ、Fusobacteriumとの共培養でマクロファージの形質転換が生じ、TGF-βを分泌するM2マクロファージへの変化が確認された。さらに、分泌されたTGF-βを含有する細胞上清を正常子宮内膜線維芽細胞に添加することでTAGLN陽性の筋線維芽細胞への変化も確認された。
加えて、Fusobacteriumが子宮内膜微小環境を変化させることにより子宮内膜線維芽細胞がTAGLN高発現の筋線維芽細胞へ変化し、それが子宮内膜症の発症メカニズムの一要素であることが判明した。
名大病院で抗生剤治療の有効性を検討する特定臨床研究が進行中
抗生剤治療は子宮内膜症患者にとって病態発症メカニズムに即した、非ホルモン性治療としての新規治療戦略となる可能性がある。研究成果を受け、現在、子宮内膜症患者への抗生剤治療の有効性を検討するため、同大医学部附属病院産婦人科で特定臨床研究を進めている。「特に妊娠希望の女性にとって、安全に使用できる非ホルモン性の新規治療薬としての効果が今後期待される」と、研究グループは述べている。
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