何がリハビリテーションに対する患者の意欲を高めるのか?
浜松医科大学は6月8日、多施設アンケート調査により「リハビリテーション意欲を高める動機づけ要因」について、患者・医療者の意見の共通点と相違点を明らかにしたと発表した。この研究は、同大総合人間科学講座(心理学)の田中悟志教授、同医学部附属病院リハビリテーション科の山内克哉病院教授、信州大学医学部保健学科理学療法学専攻の小宅一彰助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Medicine」に掲載されている。
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リハビリテーションの効果を最大化するためには、治療に対する患者の意欲向上が極めて重要であると考えられている。しかし、リハビリテーションに対する患者の意欲はどうすれば高まるのかに関しては、研究に裏付けられた十分なデータがあるわけではなく、個々の医療者の経験や、センスに大きく依存している。
研究グループはこれまで患者を動機づけるために重要と考えられる要因について、医療者を対象としたアンケート調査や、インタビュー調査を実施してきた。しかし、何がリハビリテーションに対する患者の意欲を高めるのかについては、患者と医療者で異なる考えを持っている可能性がある。患者と医療者の考えの共通点と相違点を明らかにすることは、リハビリテーションにおける「根拠に基づいた実践:Evidence-Based Practice」と「患者中心ケア:Patient-Centered Care」に重要な知見となる。そこで研究グループは、この問題を明らかにするため、患者・医療者双方の意見を聴取する多施設アンケート調査を実施した。
患者・医療者ともトップ3は、回復の実感・明確な目標設定・患者の生活に関わる訓練
同調査には、静岡県、長野県、愛知県、千葉県の回復期リハビリテーション病棟を有する13施設において実施。該当施設に入院している脳卒中、神経疾患または整形疾患を有する患者479人と、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の医療者401人が調査に参加した。参加者には、15個の動機づけ要因のリストの中から、リハビリテーションに対する患者の意欲を高めるために最も重要な要因を選択するよう求めた。
その結果、患者群と医療者群の双方でそれぞれ最も多くの対象者に選択された動機づけ要因トップ3は両群で共通しており、「回復の実感」「明確な目標の設定」「患者の生活に関係する訓練」だった。一方、対象者の5%以上が選択した要因の数は、患者群は9つであるのに対し、医療者群は5つだった。つまり、何がリハビリテーションに対する意欲を高めるかは、医療者よりも患者間の個人差が大きいことが明らかになった。
また、探索的分析の結果、「回復の実感」と「明確な目標設定」は65歳未満の患者に重要な要因として選ばれていた。さらに、入院してから日が浅い時期の患者ほど「医学的情報」が動機づけに重要と考えていることも判明した。このように、患者背景によって重要と考える動機づけ要因が異なることも明らかになった。
患者の好みに沿った動機づけが重要である可能性
動機づけ要因のトップ3は患者・医療者共通で「回復の実感」「明確な目標の設定」「患者の生活に関係する訓練」だった。これまでも患者の動機づけにおいて大切と考えられていたが、今回の調査結果は患者・医療者双方の視点から見ても、それらの要因が特に重要であることを定量的に示している。
一方、医療者よりも患者の方が重要と考える要因については個人差があり、より多様な要因が選ばれていた。これらの研究結果は、リハビリテーションにおける動機づけ方略を考える際に、医療者は双方から支持される中核的な動機づけ要因に加え、患者背景や個々の患者の好みも考慮すべきであることを示唆している。同研究成果は、患者の動機づけに難しさを感じているリハビリテーション医療従事者、特に、臨床経験年数の浅い医療者にとっては有益な情報になると考えられる。
「今後の研究では、これらの研究成果を活用し、患者を効果的に動機づける方略モデルを開発し、その有効性を検証する」と、研究グループは述べている。
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・浜松医科大学 プレスリリース