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SLEの発症に寄与する遺伝要因、日本人集団において特定-筑波大

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2023年06月14日 AM11:33

多因子疾患SLE、連鎖不平衡により関連する複数のバリアントの寄与は未解明

筑波大学は6月13日、日本人集団の解析により、ヒト白血球抗原遺伝子領域において、)の発症に一義的に関与する遺伝因子を特定したと発表した。この研究は、同大医学医療系の土屋尚之教授、川﨑綾助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「RMD Open」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

SLEは代表的な膠原病(全身性自己免疫疾患)の一つで、複数の遺伝因子と後天的因子が複合的に作用して発症に至る、多因子疾患と考えられている。遺伝因子としては、100か所以上の染色体領域に、SLEに対するかかりやすさ(疾患感受性)に関連するバリアント(DNA配列の個人差)が存在することが明らかになっているが、それぞれの領域における分子機構の詳細は未解明である。

免疫応答の個人差に大きな影響を持つヒト白血球抗原(HLA)遺伝子群が位置する、第6染色体短腕の主要組織適合性複合体(MHC)領域は、SLE感受性に最も強く関連する染色体領域の一つである。この領域には、HLA遺伝子の他にも、免疫系で重要な機能を有するいろいろな遺伝子が位置しており、HLA遺伝子のアリル(遺伝子配列の違いで規定されるHLAの型)と強く結びついた特定の組み合わせ(連鎖不平衡)で存在するものも多数存在する。従って、強い連鎖不平衡にある複数のバリアントのいずれが、SLEの発症や病態形成の分子機構に寄与するのかを決定することが重要である。

疾患感受性に関連するHLA遺伝子アリル、人種によって異なる

SLEの疾患感受性に関連するHLA遺伝子の主なアリルは人種によって異なっており、ヨーロッパ系集団ではHLA-DRB1*03:01とHLA-DRB1*15:01、アフリカ系集団ではHLA-DRB1*15:03、日本人を含む東アジア系集団ではHLA-DRB1*15:01である。HLA-DRB1*03:01は、欧州系集団において、免疫応答に関与する血清タンパク質をコードするC4遺伝子のコピー数減少と強い連鎖不平衡にあるため、HLA-DRB1*03:01とC4のコピー数減少のいずれがSLEの病因として重要なのかを決定することは困難だったが、近年、アフリカ系集団を対象とした研究により、C4のコピー数減少が病因的であり、HLA-DRB1*03:01は連鎖不平衡による見かけ上の関連であることが示唆されている。

また、欧州系集団におけるHLA-DRB1*15:01とアフリカ系集団におけるHLA-DRB1*15:03は、HLA-DRB1座位とHLA-DQA1座位の遺伝子間領域XL9に位置し、HLAの発現レベルに関連する一塩基バリアント(SNV)と強い連鎖不平衡にあり、こちらも、いずれが病因的なのかを区別することは容易ではなかった。

日本人集団は、HLA-DRB1*15:01かXL9領域が関与すると予測

一方、日本人を含む東アジア系集団では、HLA-DRB1*15:01とSLEの疾患感受性の関連が見られる。しかし日本人集団には、HLA-DRB1*15:02も高頻度に存在し、こちらはSLEの疾患感受性との関連は認められない。研究グループは、このような日本人集団の遺伝学的特徴に基づいて、HLA-DRB1*15:01とXL9領域のいずれがSLEの疾患感受性に関与するかを識別しうるのではないかと考えた。

日本人SLE患者442人と健常者779人を対象に、HLA-DRB1とXL9領域のSNVを解析

442人の日本人SLE患者と779人の健常対照群を対象に、HLA-DRB1および欧州系集団の先行研究においてSLEとの関連が報告されたXL9領域の2か所のSNV(rs2105898、rs9271593)、および、日本人集団におけるゲノムワイド関連研究によりSLEとの関連傾向が検出されている2か所のXL9領域SNV(s9271375、rs9271378)の遺伝型を決定した。日本人集団においては、HLA-DRB1*15:01、XL9領域のrs2105898T、rs9271593Cにおいて有意な関連が検出された。

HLA-DRB1*15のグループでは、ヨーロッパ系集団ではHLA-DRB1*15:01、アフリカ系集団ではHLA-DRB1*15:03が大部分を占めるが、日本人集団では、HLA-DRB1*15:01とHLA-DRB1*15:02がいずれも高頻度に存在する。公開データベースを用いた解析により、欧州系集団、アフリカ系集団ではそれぞれのHLA-DRB1アリルがrs2105898Tと強い連鎖不平衡にあるのに対し、日本人集団では、HLA-DRB1*15:01とHLA-DRB1*15:02のいずれもがrs2105898T、rs9271593Cと中等度の連鎖不平衡にあることがわかり、今回の研究対象者においても確認できた。

HLA-DRB1遺伝子が病因的、XL9領域は連鎖不平衡による二次的関連と示唆

次に、ロジスティック回帰分析により、HLA-DRB1*15:01とXL9領域バリアントとの独立性を検定した。その結果、SLEリスクに関連するrs2105898Tアリルの関連はHLA-DRB1*15:01で調整すると有意性が失われたのに対し、HLA-DRB1*15:01の関連は、rs2105898Tで調整後も有意性が残存した。

以上のことから、日本人集団ではHLA-DRB1*15:01とXL9領域を遺伝学的に切り分けることが可能で、これにより、SLEの発症については、HLA-DRB1*15:01とXL9領域の関連は、HLA-DRB1遺伝子が病因的であり、HLA遺伝子の発現を制御するXL9領域は、連鎖不平衡による二次的関連であることが強く示唆された。また、今回の研究により、疾患に関連する染色体領域において、連鎖不平衡の異なる複数の集団を併せて解析する手法の有用性も改めて確認された。

SLE感受性におけるHLA-DRB1*15:01の関連、抗原提示やT細胞の抗原認識を想定

「疾患関連遺伝子解析の成果を創薬につなげるためには、疾患の発症や臨床所見と遺伝子バリアントとの関連の分子機構の理解が重要である。HLA-DRB1*15:01とSLE感受性の関連に関しては、HLA本来の分子機構である、抗原ペプチド提示や、各個体におけるT細胞の抗原認識多様性の形成が想定される。このハプロタイプにもXL9領域バリアントが存在しており、その意義についても今後の解析が必要である。また、XL9領域は極めて多様性に富み、ゲノム解析が困難な領域であることから、今後、各集団におけるロングリード・シークエンス技術などを用いた解析が期待される」と、研究グループは述べている。

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