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難聴関連遺伝子SLC26A4変異による前庭障害、原因は耳石形成の異常-東京医歯大

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2023年06月13日 AM11:00

日本人で頻度が高いSLC26A4変異による遺伝性難聴、めまい発作を伴う

東京医科歯科大学は6月9日、マウスの眼球運動を観察する装置を新たに開発して、回転刺激、重力刺激、温度刺激を加えた場合に三半規管や耳石器を介した眼球への反射運動がどのようになるのかを定量的に評価することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科耳鼻咽喉科学分野の伊藤卓講師と堤剛教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neurobiology of Disease」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

同大耳鼻咽喉科学分野では長年、赤外線CCDビデオ眼振計を用いた眼位の変換アルゴリズムを独自に作製して研究を続けてきた。また、遺伝子変異による聴覚平衡覚障害の研究にも長年取り組んでいて、特に、前庭水管拡大を伴う難聴を引き起こすSLC26A4遺伝子が日本人で最も高頻度に同定される難聴関連遺伝子の1つであること、その臨床的特徴の詳細を明らかにしてきた。

例えば、SLC26A4変異によって引き起こされる遺伝性疾患であるPendred症候群やDFNB4の患者は、難聴に加えてふらつきや反復するめまい発作を伴い、日常生活動作にも制限が生じるなど大きな影響を及ぼす。めまい発作は頭位を傾けると悪化する傾向があり、その性状から良性発作性頭位めまい症と同様の病態が関係している可能性が考えられている。

マウス眼球運動観察装置を開発、平衡機能障害の病態を検討

また、研究グループはさまざまな遺伝子改変技術を用いてPendred症候群のモデルマウスを作製し、聴覚機能障害の病態を明らかにしてきた。しかし、平衡機能に関しては、さまざまな刺激に対するマウス前庭眼反射を定量的に評価する方法がなかったため、根本的な原因が長らく不明だった。

そこで今回の研究では、まず回転刺激、重力刺激、温度刺激に対する前庭眼反射を計測することができる眼球運動観察装置を新規に開発。さらに、組織構造を傷つけることなく非破壊的に骨構造を明らかにすることができるマイクロCTを用いた耳石形態および局在の評価や、ホールマウント染色による前庭の感覚細胞である有毛細胞形態の観察を行って、平衡機能障害がどのような病態で発症しているのかを検討した。

Slc26a4欠損マウス、耳石器機能反映の傾斜刺激による眼球の変位が障害

研究グループは、覚醒下におけるマウスの眼球運動を定量的に評価できる観察装置を作製して、固定テーブルを傾けたり回転させたりすることでどのような眼球運動が観察されるのかを解析。また、固定テーブルを傾けた状態で保持することによって、温度刺激に対する前庭眼反射も観察することが可能となった。

この眼球運動観察装置を用いて、 KOマウスの前庭眼反射を観察したところ、半規管機能によって制御される回転刺激による眼球運動はそれほど障害されておらず、耳石器機能を反映する傾斜刺激による眼球の変位は対照群に比べて障害されていた。また、冷水の注入による温度刺激に対する眼球運動を計測すると、同じマウスでも左右で差があることが判明し、障害の程度も多彩であることが明らかになった。

主に耳石形成異常による病態と示唆、神経細胞障害はほとんどなし

さらに、非破壊的に骨構造を明らかにすることができるマイクロCTを用いた耳石形態および局在の評価を行うと、対照群のマウスで見られる球形嚢と卵形嚢の耳石の総体積はSlc26a4 KOマウスでは有意に減少しており、特に、球形嚢においては多くのマウスで欠損していた。しかし、その局在はSlc26a4 KOマウスでもおおむね正常位置に存在しており、耳石器内での耳石の移動や三半規管内の異所性耳石は観察されなかった。したがって、傾斜刺激に伴って急速に移動する異常眼球運動は半規管内の耳石が埋入したことによるのではないことが示唆された。また、ホールマウント法による前庭の感覚細胞である有毛細胞形態の観察では、不動毛の形態および細胞数に対照群とSlc26a4 KOマウスで有意な差は認めず、保存されていることが判明した。

これらの観察結果から、Slc26a4 KOマウスでみられる前庭障害の病態が主に耳石形成の異常によるものであることが強く示唆された。一方、神経細胞の障害はほとんど見られないことが明らかになった。

Pendred症候群などのめまい発作、良性発作性頭位めまい症とは異なる病態で発症

また、半規管内に異所性の耳石が見られなかったことから、Pendred症候群やDFNB4の患者で見られる頭位で誘発されるめまい発作は、良性発作性頭位めまい症とは異なる病態で発症していると考えられた。

平衡機能の維持は身体機能や意欲・精神面の安定に直結し、国民の健康と生産的な生活に大きく関係している。しかし、急速に進んだ現在の高齢化社会では、72歳以上の24%にめまいや平衡障害が見られ、また転倒・骨折の危険因子としてのめまい・平衡障害の相対リスクは2.9倍になるといわれている。したがって、めまいや平衡障害の病態の解明、予防法の確立および新規治療薬の開発は喫緊の課題だ。

今回の研究結果から、SLC26A4の機能不全によって引き起こされる前庭障害の病態は耳石器における耳石の形成異常によるものであることが強く示唆された。耳石の形成異常はヒト側頭骨の研究から高齢者におけるふらつきの代表的な原因とも考えられており、最も一般的な平衡疾患である良性発作性頭位めまい症も耳石の代謝生成異常に起因する疾患と考えられている。研究グループは、「Slc26a4 KOマウスがPendred症候群やDFNB4患者で見られる平衡機能障害に限らず、その他の耳石形成異常による前庭障害への介入方法を考えるうえでも有用である」とし、さらに、「リハビリテーションなどによる予防法の確立や新規治療薬を開発する際にどのような方向性でアプローチすればよいのかという指針を示すことにつながると思われ、発展性の高い結果だと考えられた」と、述べている。

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