マイルドに酪酸菌を活性化するPHB、増加した酪酸はTreg活性化で炎症を抑制
東京工科大学は6月8日、バクテリア由来の生分解性プラスチックであるポリヒドロキシ酪酸(PHB)が、酪酸菌にケトン体(3-ヒドロキシ酪酸:3HB)を供与し、酪酸菌優位な腸内細菌叢を誘導することを提唱したと発表した。この研究は、同大応用生物学部の佐藤拓己教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Trends in Endocrinology and Metabolism」オンライン版に掲載されている。
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佐藤教授はこれまで、ケトン体がアンチエイジング分子であることに注目し、小腸や大腸内でケトン体を放出する分子(ケトン供与体)について研究開発を続けてきた。ケトン供与体には、小腸でケトン体を放出するケトンエステル(KE)と、大腸でケトン体を放出するPHBがある。KEは、小腸の消化酵素で加水分解されるため、数分でケトン体(3HB)の濃度を大きく増加させるのに対し、PHBは腸内細菌が加水分解しながら放出するため増加幅は小さいが、持続的にケトン体濃度を増加させる。また、PHBは酪酸菌を活性化し酪酸を増加させ、制御性T細胞を活性化し炎症を抑制することが、これまでの研究でわかっている。酪酸菌は、乳酸菌とともに主な善玉菌のひとつだ。
PHB10%を5週間摂取でラットの善玉菌「増」、悪玉菌「減」が知られていた
Javier Fernándezらの研究によると、ラットにPHB10%を5週間摂取させると、善玉菌を多く含むファーミクテス門が有意に増加し、悪玉菌を多く含むプロテオバクテリア門が有意に減少することが示されていた。
また、ファーミクテス門の中で属および種レベルでは、長寿に関係する酪酸菌のグループであるロゼブリア属やルミノクロストリジウム属、クロストリジウム属などの酪酸菌が有意に増加し、大腸内の酪酸濃度を増加し、大腸がんを抑制することがわかっている。
PHBを、腸内細菌へケトン体を供与する「ケトバイオティクス」として提唱
佐藤教授は大腸管腔において、PHBは腸内細菌へのケトン体の供与から始まる新しいプレバイオティクスとして「ケトバイオティクス」を提唱している。「ケトバイオティクス」は腸内細菌へのケトン体の供与から始まるという点で既存のプレバイオティクスとは一線を画すとしている。
ケトン体は、消化管上皮の幹細胞の維持に必須であることがわかっている。PHBはケトン体を大腸管腔で放出するため、腸内細菌(特に酪酸菌)から始める大腸管腔全体の若返りの有効なツールになると考えられる。また、酪酸菌の製剤は整腸剤として、内科臨床の世界ではすでに広く使われている。
「酪酸菌の製剤とPHBを同時に使うことができれば、さらに短時間で酪酸菌優位な腸内環境を誘導できることが期待される」と、研究グループは述べている。
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