B細胞がどのようなメカニズムでAIHを増悪させるかは不明だった
慶應義塾は6月9日、B細胞がサイトカインの一種であるIL-15の分泌により細胞傷害性のCD8+T細胞を増殖させ、自己免疫性肝炎(AIH)を増悪させることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(消化器)の中本伸宏准教授、金井隆典教授、田辺三菱製薬株式会社の藤森惣大共同研究員を中心とした研究グループによるもの。研究成果は、「JHEP Reports」に掲載されている。
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AIHはさまざまな原因により免疫系が異常化し、免疫細胞が自分自身の肝臓の細胞を攻撃してしまうことで発症する難病指定された肝炎。世界的にみると30%ほどのAIH患者は難治性であり完全な治癒が実現できていない。しかし、一部の難治性患者においてB細胞を除去する作用を持つ薬剤が有効であることが複数のグループから報告されている。B細胞はAIHの難治性に関与していることが示唆されている一方で、B細胞がどのようなメカニズムでAIHを増悪させるかはほとんど明らかにされていなかった。
研究グループは今回、これを明らかとすることでAIHの病態を理解するとともに、新たな治療方針や新薬の開発が期待できると考え、研究を行った。
AIH発症マウスはIL-15発現「高」、B細胞機能因子としてIL-15が重要と推測
今回の研究では、B細胞が関連する特徴(抗体産生細胞の肝臓での増加、血中自己抗体の上昇など)について、AIH患者と類似性を示すAIHマウスモデルを用いた。B細胞はリンパ球の一種であり、リンパ組織の脾臓に多く存在する。そこで、マウスの脾臓と肝臓中のB細胞について網羅的な遺伝子発現解析を行った。
その結果、AIH発症マウスは細胞傷害性CD8+T細胞を増殖させるサイトカインの一種「IL-15」の発現量が高いことが明らかとなった。事前の検討から、AIHを発症したマウスのB細胞はマウスの体内でCD8+T細胞を増加させることを発見していたため、B細胞の機能因子としてIL-15が重要だと考えた。
AIHマウスの脾臓中B細胞、IL-15分泌でCD8+T細胞の増殖を促進
次に、B細胞がIL-15の分泌によりCD8+T細胞の増殖を促進できるかを直接的に評価するために、AIH発症マウス脾臓から単離したB細胞とCD8+T細胞を共培養する検討を行った。
その結果、AIH発症マウス脾臓由来のB細胞との共培養によりCD8+T細胞の増殖が促進された。さらに、IL-15の中和抗体によりサイトカイン機能を失わせると、CD8+T細胞の増殖促進は減弱した。このことから、AIHマウスの脾臓中B細胞はIL-15の分泌によってCD8+T細胞の増殖を促進することが示された。
AIH患者のB細胞でIL-15発現量「高」、ALTとも相関で病態に関与の可能性
最後に、マウスでの発見がAIH患者の病態にも関与するかを考察するため、AIH患者血中のB細胞についてIL-15の発現をフローサイトメトリー法で解析した。
その結果、健常人と比較してAIH患者のB細胞では、IL-15の発現量が高い(蛍光強度が高い)ことが示された。また、AIH患者について肝炎の重症度のマーカーである血中ALT濃度とIL-15の蛍光強度が相関することがわかり、AIH患者においてもB細胞のIL-15が病態に関与することが示唆された。
AIHの治療方針や新薬開発に役立つことに期待
今回の研究により、B細胞がIL-15の分泌でCD8+T細胞を増殖させ、AIH病態を増悪させるという新規メカニズムが解明された。また、CD8+T細胞がB細胞のIL-15発現を誘導するという現象も過去に報告がなく、非常に興味深い発見と言える。これはB細胞機能の一端で、サイトカイン以外の細胞膜発現分子や自己抗体なども病態に関与すると考えられる。
「B細胞の病態関連機能の研究はさらに発展していくと思われるが、その際に本研究成果が足掛かりとなることを期待している。さまざまな知見が蓄積されていくことで、新たな治療法や新薬が開発されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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