TRPV4が及ぼす乾癬への影響/機能阻害による治療薬開発の可能性を検討
群馬大学は6月8日、皮膚の表皮細胞や神経で発現するTRPV4が乾癬の皮疹の病態、重症度に重要な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科皮膚科学講座の内山明彦講師らの研究グループ(茂木精一郎教授)と、長崎県立大学栄養健康学科細胞生化学研究室(柴崎貢志教授)との共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Investigative Dermatology」オンライン掲載に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
乾癬は難治性の皮膚疾患であり、痒みや皮疹による見た目の変化によって生活の質が低下し、悩みを抱える患者が多くいる。欧米では有病率は2~3%と高く、近年日本でも生活習慣の変化などの要因により徐々に患者数が増えている。そのため乾癬の病態の解明や新しい治療薬の開発の重要性が日々高まっている。
温度感受性Transient Receptor Potential(TRP)チャネルは温度や化学的・物理的刺激を感受することでさまざまな生態機能を制御することが知られている。TRPVファミリーはTRPチャネルの1つ。TRPV1は痒み刺激や神経ペプチド介して乾癬の制御に関与することが知られていた。しかし、TRPV4が乾癬にどのような影響を及ぼしているかはいまだ十分に研究が進んでいなかった。
そこで研究グループは今回、TRPV4が及ぼす乾癬への影響を解明し、さらにTRPV4の機能を阻害する薬剤を用いた新たな治療薬の開発の可能性について検討することを目的として研究を行った。
乾癬患者の表皮細胞でTRPV4高発現、TRPV4欠損マウスは乾癬様皮膚炎の重症度低下
乾癬患者の皮膚と正常の皮膚を比較したところ、乾癬の表皮細胞においてTRPV4が高発現していることを発見した。
次に、イミキモドを皮膚に外用することで発症する乾癬様皮膚炎モデルを用いて、TRPV4が乾癬の病態にどのように関与しているかを調べた。その結果、TRPV4の遺伝子を欠損したマウスは正常のマウスと比較して、乾癬様皮膚炎の重症度が低下することを見出した。
TRPV4欠損マウスでは炎症細胞、炎症性サイトカイン、ATP量、神経線維・神経ペプチド発現低下
乾癬の皮膚炎部では炎症を生じる細胞(樹状細胞、Th17細胞)が増え、炎症を引き起こすサイトカイン(TNF-α、IL-17、IL-23)を産生する。また乾癬の皮疹部では神経線維が伸長し、神経伝達物質を放出し炎症細胞を活性化する。また、細胞外ATPは傷害関連分子パターン(DAMPs)と呼ばれ、炎症を引き起こす因子として知られている。機序を解明するため、マウスの乾癬様皮膚炎部における炎症細胞浸潤、炎症性サイトカイン、神経線維および神経ペプチド、ATPの量について検討した。
その結果、TRPV4の遺伝子を欠損したマウスでは正常のマウスと比較して、炎症細胞(好中球、マクロファージ)や炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-17、IL-23など)の発現、ATPの量および神経線維の数や神経ペプチド(CGRP、サブスタンスP)の発現がTRPV4の遺伝子を欠損したマウスで低下していた。また、表皮細胞を用いた実験ではTRPV4が温度や乾燥などの刺激によって細胞外へのATP放出を促進し、細胞増殖を促進することも見出した。
TRPV4阻害薬で乾癬様皮膚炎マウスの重症度改善
最後に、乾癬様皮膚炎マウスに対するTRPV4阻害薬(アンタゴニスト)の局所注射による治療効果について検討した。その結果、TRPV4阻害薬によって、乾癬様皮膚炎の重症度が改善した。
TRPV4を治療ターゲットとした新たな乾癬の治療アプローチの可能性
今回の研究により、TRPV4 は表皮細胞におけるATPの細胞外放出や神経線維から分泌される神経伝達ペプチドを制御することでIL-23/Th17経路を活性化し、乾癬の皮疹の発症に寄与していることが明らかになった。さらに、TRPV4阻害薬を投与することでマウスの乾癬様皮疹の重症度が改善することも判明した。
「本成果により、TRPV4を治療ターゲットとした新たな乾癬の治療アプローチの可能性が見出された。TRPV4阻害薬の外用剤などの新たな薬剤の開発につながる可能性もあると考えられる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・群馬大学 プレスリリース