眼の血管病変ではVEGF以外のシグナルも関与、BCL6Bは?
岐阜薬科大学は6月7日、分子BCL6Bが眼の血管の健康維持に重要であることを発見したと発表した。この研究は、同大薬効解析学研究室の中村信介准教授、嶋澤雅光教授、原英彰学長ら、愛媛大学、千葉大学、カルナバイオサイエンス株式会社の研究グループによるもの。研究成果は、「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」に掲載されている。
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超高齢社会の健康寿命延伸の実現において、視覚機能の維持・向上は極めて重要な一翼を担っている。滲出型加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症など、眼の中に存在する細い血管が詰まったり、血管壁が脆くなることで血液成分が漏れ出したり、異常な血管新生が生じることで、視野欠損や視力低下を招く疾患がある。このような血管異常に起因する眼疾患において、血管の健康を維持するための分子機構の解明や治療法の確立は健康寿命延伸につながることが期待される。
血管が脆くなる、異常な血管新生が生じるなどの原因タンパク質としてvascular endothelial growth factor(VEGF)が同定されている。臨床においても、VEGFシグナルを制御する治療戦略が眼血管病態に対して奏功することが明らかになっている。しかし、眼の血管病変の発症や進展は非常に複雑で、VEGF以外のシグナルも関与していることが報告されている。そこで今回、研究グループは、細胞内のタンパク質BCL6Bに着目した研究を進めた。
網膜静脈閉塞モデルマウス、BCL6Bノックダウンで網膜内浮腫抑制
研究グループは、網膜静脈閉塞モデルマウスを作製し、網膜におけるBCL6Bの発現部位を調べた。その結果、血流が途絶した部位(無灌流域)、すなわち虚血部位で強く発現することを見出し、BCL6Bの発現を抑制するBCL6B siRNAをマウスの眼の中に投与すると網膜静脈閉塞モデルマウスの網膜内に生じる浮腫を抑制することを明らかにした。同モデルを用いた実験系において、BCL6Bを欠損させたマウスで網膜内の浮腫が著明に抑制されたことから、内因性のBCL6Bが網膜血管の制御因子として働くことがわかった。
カニクイザル滲出型加齢黄斑変性モデル、BCL6Bノックダウンで血管新生抑制
滲出型加齢黄斑変性モデルマウスに認められる異常血管新生の部位でも、BCL6Bが顕著に発現していた。さらに発展的な実験として、カニクイザル滲出型加齢黄斑変性モデルを用いて検討。その結果、BCL6B siRNAを投与したモデルサルにおける血管新生が抑制された。
VEGF添加でNotch標的遺伝子Hesが発現低下、BCL6B抑制でHesはレスキュー可能
次に、網膜微小血管内皮細胞を用いた実験から、VEGF添加後にNotch標的遺伝子Hesが低下すること、加えてBCL6Bの発現抑制を介してHesの減少をレスキューできることが判明。また、VEGFの刺激によって亢進するVEGFR2、PLCg、eNOSのリン酸化タンパク質の発現が、BCL6B siRNAの添加により抑制されることを明らかにした。
BCL6B発現抑制の治療アプローチ、眼内血管病変を呈する病気に有効である可能性
今回の研究結果より、眼内でVEGFが増加するとBCL6Bが顕著に誘導され、血管安定化作用を有するNotchシグナルを不活性化し、その結果、ペリサイトの脱落や血管透過性の亢進、管腔形成などが引き起こされることが推測された。BCL6B siRNAのようなBCL6Bの発現を抑制する治療アプローチが、滲出型加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症といった眼内の血管病変を呈する病気に対して有効である可能性が示された、と研究グループは述べている。
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