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mpoxウイルス2022年株、ヒトの皮膚と腸管への機能障害を細胞モデルで解析-CiRAほか

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2023年06月09日 AM11:42

mpoxウイルスの新しい系統2022 、系統間の特徴の比較は十分ではない

京都大学iPS細胞研究所()は6月7日、ヒトケラチノサイトおよびヒトiPS細胞由来大腸オルガノイドを用いて、(MPXV)の感染実験を行い、MPXV従来株およびMPXVの2022年アウトブレイク株()のウイルス学的特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所CiRA増殖分化機構研究部門の渡邉幸夫研究員、木村出海特任研究員(研究当時:東京大学医科学研究所システムウイルス学分野)、橋本里菜研究員、G2Pコンソーシアム、東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤佳教授、CiRA増殖分化機構研究部門の高山和雄講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medical Virology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

1970年、コンゴ民主共和国においてmpoxの最初の症例が確認されて以降、中東アフリカではmpox患者が継続的に確認されていた。2022年にMPXVの新しい系統(2022 MPXV)が出現し、現在では欧米諸国などアフリカ以外の地域でも感染が広がっている。MPXVはクレードI、IIa、IIbの3つの系統に分類される。2022 MPXVはクレードIIbに属し、クレードIよりも致死性が低いことが知られている。また、mpoxの症状として発疹、発熱、頭痛やリンパ節腫脹などがあげられるが、2022 MPXV感染者は特に直腸や生殖器周辺の発疹が多く見られることがわかっている。しかし、MPXV系統間のウイルス学的な特徴の比較は十分ではなく、2022 MPXVについてのより詳細な解析を進める必要がある。

2022 MPXVは従来株と同様、大腸オルガノイドよりケラチノサイトに感染する

そこで研究グループは、ケラチノサイトおよびiPS細胞由来大腸オルガノイドに対して、クレードI、IIa、IIbの3系統のMPXVを感染させ、2022 MPXVのウイルス学的特徴の同定と各部位における宿主応答の解析を試みた。

この感染実験では、クレードI、IIa、IIbの3系統のMPXVとしてそれぞれZr-599、Liberia、2022 MPXVを用いた。3系統のMPXVを、ケラチノサイトおよび大腸オルガノイドに3日間感染させた。1、2、3日目のケラチノサイトおよび大腸オルガノイドの培養上清においてウイルスゲノムが検出された。2022MPXVを感染させたケラチノサイトにおいては、1日目から3日目にかけてウイルスゲノム量が16.7倍に増加していた一方で、大腸オルガノイドでは1.4倍程度でほぼ変化していなかった。また、大腸オルガノイドよりもケラチノサイトのほうがMPXVのmRNA発現量が高いことが示された。これらの結果から、2022 MPXVがMPXV従来株と同様に、ケラチノサイトへの感染指向性が高いことが示唆された。

2022 MPXV感染によるケラチノサイトの細胞障害、従来株とは異なるメカニズム

MPXVの感染は、どの系統の場合もケラチノサイトの形態異常を引き起こした。また、MPXV感染によってケラチノサイトのマーカーであるKRT10の発現がほぼ消失した。これらの結果は、MPXV感染がケラチノサイトの細胞障害を引き起こすことを示している。

次に、MPXV感染によるケラチノサイトの宿主応答を調べるために、網羅的遺伝子発現を解析した。クラスタリング解析により、2022 MPXVはMPXV従来株と比較して遺伝子発現プロファイルが異なることが示唆された。また、MPXV感染により発現上昇あるいは減少した上位10個の遺伝子群を調べたところ、どのMPXVの系統もケラチノサイトの機能およびミトコンドリア機能に関わる遺伝子群の発現が低下していた。一方で、MPXV感染によりヌクレオソームの構築に関わる遺伝子群の発現上昇が確認された。以上のことから、MPXV感染による3系統で共通の遺伝子発現プロファイルの変動を明らかにした。

続いて、ケラチノサイトにおいて、2022 MPXV感染に特異的な遺伝子発現変動について評価した。その結果、2022 MPXV感染群に特異的に、低酸素症への応答を示す遺伝子群の発現上昇が確認された。したがって、2022 MPXVがMPXV従来株と異なるメカニズムで皮膚障害を生じさせる可能性が示唆された。

大腸オルガノイド、Zr-599感染により亜鉛の恒常性に影響を受ける可能性

MPXVを感染させた大腸オルガノイドについても、網羅的遺伝子発現解析を実施した。クラスタリング解析の結果、Zr-599感染群は他のMPXV株とは異なる遺伝子発現プロファイルを示すことがわかった。Zr-599感染群においては、亜鉛への応答および亜鉛の恒常性に関わる遺伝子群の発現が減少していた。亜鉛の吸収・排泄は腸管の恒常性に重要であることが知られている。Zr-599感染群において、亜鉛の適量維持に必要なMT1Gのタンパク質発現が減少していることが確認された。過去に、Zr-599が霊長類において重度の腸管障害を引き起こすことは報告されている。これらの結果から、Zr-599感染により腸管における亜鉛の量の均衡が崩れ、腸管障害を誘導する可能性が示唆された。

抗ウイルス薬のほか、皮膚や大腸の障害を改善する治療薬候補も評価可能

今回の研究では、ヒトケラチノサイトとヒトiPS細胞由来大腸オルガノイドを用いて、MPXV感染と宿主応答の両方を評価することに成功した。MPXVタンパク質を標的とする治療薬はすでにいくつか開発されているが、ヒト細胞におけるそれらの抗ウイルス効果は十分に検討されていない。この研究のモデルを用いることで、抗ウイルス薬だけでなく、皮膚および大腸における障害を改善する治療薬候補も評価可能である。「新型コロナウイルスと同様に、MPXVは新しい変異を獲得する可能性があるため、今後もさまざまな薬の開発が必要である。本研究成果がmpoxの理解を深め、mpox治療薬開発の促進につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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