医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 異所性骨の起源細胞は神経堤細胞と判明-CiRAほか

異所性骨の起源細胞は神経堤細胞と判明-CiRAほか

読了時間:約 3分24秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年06月08日 AM10:59

間葉系間質細胞から形成される異所性骨、起源細胞は不明だった

京都大学iPS細胞研究所()は6月7日、発生期に一時的に出現する神経堤細胞から異所性骨が作られることを示唆する研究成果を発表した。この研究は、同研究所臨床応用研究部門の趙成珠研究員(現在:重慶医科大学生命科学研究所准教授)、池谷真准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Genes & Diseases」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

培養細胞を用いて病態を正確に知るためには、生体内で病態の原因となる細胞、あるいはその細胞とよく似た性質の細胞を用いて病態を再現することが重要だ。体のほぼ全ての細胞になることのできるiPS細胞を使って再現を行う場合には、受精卵から病態の原因となる細胞がどのように形成されるのかを知る必要がある。

異所性骨化は、本来、骨が形成されない組織(骨格筋や腱靭帯など)に異所的に骨が形成される疾患である。異所性骨は、外傷や外科手術後に偶発的に形成される場合のほかに、希少難病の一つである進行性骨化性線維異形成症(fibrodysplasia ossificans progressive、以下FOP)のように、遺伝子変異が原因となって体内に形成される場合がある。FOPの国内患者数は約80人とされている。

これまでに、マウスを用いた実験から、異所性骨は、筋肉細胞からではなく、筋肉組織中に存在する間葉系間質細胞から形成されることが知られていた。しかし、この間葉系間質細胞の元となる細胞(発生上の起源細胞)については明らかになっていなかった。

-7で誘導される異所性骨は神経堤細胞に由来、レポーターマウスで確認

研究グループははじめに、神経堤細胞の子孫細胞をLacZ遺伝子で標識できるマウス(P0-Cre;floxed-LacZレポーターマウスと、Wnt1-Cre;floxed-LacZレポーターマウス)を作製した。次に、骨誘導因子として知られているBMP-7タンパク質をこれらのマウスに投与することで、異所性骨の形成を誘導した。その結果、14日後に異所性骨が形成された。

この異所性骨部分の組織を取り出してX-gal染色(生体内のLacZ発現を染色で検出する)を行なったところ、異所性骨がX-gal陽性であることがわかった。さらに免疫染色法によって、異所性骨の大部分が、骨芽細胞マーカーであるSP7と、神経堤細胞の子孫細胞であることを示すLacZの両陽性の細胞であることを確認した(81.28% ± 4.05)。これらの結果から、BMP7で誘導される異所性骨は神経堤細胞から作られることが示唆された。

神経堤細胞にFOP変異があると、FOP病態を発症

次に、希少難病であるFOPで形成される異所性骨においても、同様に神経堤細胞から形成されるかどうかを確かめた。まず、FOPの変異遺伝子を神経堤細胞で発現するようにしたFOPモデルマウス(P0-Creマウス、Rosa26-loxP-stop-loxP(LSL)-rtTA3マウス、Col1a1-tetO-FOP-ACVR1マウスを交配した多重変異マウス)を作製した。次に、FOPで異所性骨を誘引する刺激として知られるヘビ毒のカルディオトキシンを投与したところ、異所性骨が誘導された。

この異所性骨組織に対して、骨芽細胞マーカーであるSP7と、神経堤細胞の子孫細胞であることを示すVenus(GFP抗体で検出可能)の免疫染色を行った結果、大部分の細胞が両陽性だった(79.13% ± 7.33)。この結果から、神経堤細胞にFOP変異があると、FOP病態を発症することがわかった。

神経堤細胞から筋肉組織中の間葉系間質細胞が作られ、異所性骨の原因になることも確認

研究グループはさらに、神経堤細胞の子孫細胞をLacZで標識することができるマウス(P0-cre;floxed-LacZレポーターマウスと、Wnt1-cre;floxed-LacZレポーターマウス)を用いて、間葉系間質細胞が神経堤細胞から作られるかどうかを検証した。

間葉系間質細胞が存在する場所に免疫染色を行い、神経堤細胞の子孫細胞であることを示すLacZと、筋肉組織に存在する間葉系間質細胞のマーカーであるPDGFRαとCOL6を調べたところ、共染色される細胞が観察された。また、このマウスにBMP-7を注射し、14日後の組織を解析すると、増殖した細胞もLacZとPDGFRαを共発現していることがわかった。また、神経堤細胞でFOPの変異遺伝子を発現するFOPモデルマウスでも、神経堤の子孫細胞(GFP陽性)がPDGFRαを共発現していることがわかった。このことから、神経堤細胞から筋肉組織中の間葉系間質細胞が作られ、これが異所性骨の原因細胞になることが示された。

iPS細胞を使った異所性骨研究の進展、新しい治療法の開発につながる可能性

今回、生体の異所性骨の原因細胞である筋肉組織中の間葉系間質細胞は、神経堤細胞の子孫細胞であることが示された。これにより、iPS細胞から神経堤細胞を経由して作製した間葉系間質細胞を使って異所性骨を研究することは、科学的に適切であるということが示された。この細胞に着目して研究をすることで、新しい治療法が開発される可能性がある。

また、筋肉組織内に存在する間葉系間質細胞は、筋肉の恒常性や再生に寄与することが知られている。「異所性骨化の研究だけでなく、間葉系間質細胞が原因で生じる骨格筋関連疾患の治療法開発にもつながることが期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大