2014~2020年度に急性冠症候群で初回入院した患者のNDBデータを解析
国立循環器病研究センターは6月6日、急性冠症候群患者に対するSGLT2阻害薬の早期開始は、心不全を伴う急性冠症候群患者において、全死亡、心不全もしくは急性冠症候群の再入院の複合イベントの減少と関連することを、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同センター情報利用促進部の金岡幸嗣朗室長、岩永善高客員部長、奈良県立医科大学の今村知明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal – Cardiovascular Pharmacotherapy」に掲載されている。
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急性冠症候群は、全世界的にも主要な死亡の要因のひとつである。これまで経皮的冠動脈形成術や薬物治療の普及により、急性期の死亡率は低下してきたが、一部の患者では心機能の低下などにより退院後の再入院や死亡につながる場合もある。
SGLT2阻害薬は、従来は糖尿病治療薬として使用されていたが、心不全患者に対しても、複合心血管イベントの減少との関連が報告され、近年使用が増加している。一方で、急性冠動脈症候群に対するSGLT2阻害薬の早期導入の有効性について、これまで大規模な報告はなされていなかった。そこで研究グループは、NDBから2014年度~2020年度に急性冠症候群で初回入院し、直近で心不全入院のない患者を対象とし、解析を行った。
「心不全あり」におけるSGLT2阻害薬の早期開始、複合イベント発症の減少と関連
主要エンドポイントは、全死亡、心不全もしくは急性冠症候群の再入院の複合アウトカムとした。入院中の利尿剤や機械的補助循環等の治療の有無で重症心不全がある群とない群に患者を分け、入院14日以内のSGLT2阻害薬開始とアウトカムとの関連について、傾向スコアマッチングを行い、各群について解析。最終的に38万8,185人の患者が対象となった。
その結果、「心不全あり」群において、SGLT2阻害薬の早期開始は主要エンドポイントの減少と関連していた。一方、「心不全なし」群では、SGLT2阻害薬の使用と主要エンドポイントとの関連は見られなかった。加えて、「心不全あり」群のうち、糖尿病患者における、SGLT2阻害薬の開始は、日本でよく用いられているDPP4阻害薬の開始と比較しても、主要エンドポイントの減少と関連していた。
急性冠症候群患者に対するランダム化比較試験が進行中
今回の研究から、近年の日本において糖尿病や心不全に対する処方が増えているSGLT2阻害薬の急性冠症候群患者に対する入院早期からの導入は、特に心不全を伴う患者において、その後のイベントを抑制できる可能性が示唆された。「現在、急性冠症候群患者に対するランダム化比較試験が進行中であり、その結果が待たれる」と、研究グループは述べている。
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