活性酸素種が「心筋収縮・弛緩」の過程に与える影響は不明だった
旭川医科大学は6月1日、心筋に伸展負荷を与えたときに産生される活性酸素種が負荷に対抗し、心筋の収縮力を増加させる働きがあることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大生理学講座自律機能分野の入部玄太郎教授と岡山大学学術研究院医歯薬学域システム生理学の成瀬恵治教授、同・貝原恵子技術専門職員の共同研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Physiology」にオンライン掲載されている。
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心筋細胞に伸展刺激を加えると、細胞膜上のNADPHオキシダーゼ2(NOX2)から直ちに活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)が産生されることが報告されている。心筋の収縮にはカルシウムが必要だが、この伸展誘発性ROSは心筋細胞内のカルシウム貯蔵庫である筋小胞体からのカルシウム放出チャネルであるリアノジン受容体機能に影響を与えることがわかっている。しかし、実際の心筋収縮・弛緩の過程にどのような影響があるかは不明だった。
そこで研究グループは今回、「心筋細胞の両端を掴んで引っ張る」という特殊な細胞操作技術を用いて心筋細胞に一時的な伸展刺激を加え、その時の収縮性などの力学特性および細胞内カルシウム濃度の変化を詳細に検討した。
伸展負荷<活性酸素<リアノジン受容体活性化<心筋収縮
その結果、遺伝子レベルでNOX2を持たないマウス(NOX2欠損マウス)は通常のマウスに比べ、細胞伸展時の収縮性が低いことがわかった。また、NOX2欠損マウスでは心筋細胞が伸展された状態で収縮させると、細胞内カルシウム濃度の上昇速度が遅かった。研究グループは、これが原因でNOX2欠損マウスでは収縮性が落ちるのではないかと考えた。
これを確認するため、コンピューターシミュレーション用の心筋細胞数理モデルに活性酸素種がリアノジン受容体の活性化に及ぼす影響を組み込み、細胞実験と同様のシミュレーション実験をコンピュータ上で行った。すると、実際の細胞実験とほぼ同じ結果が再現できたことから、伸展誘発性活性酸素種はリアノジン受容体の活性化速度を上げることで伸展時の心筋の収縮性を維持していると考えられた。
心不全病態の新たな側面の理解につながることに期待
今回の研究成果により、心筋伸展時にNOX2から産生される活性酸素種が、一時的な伸展負荷に対抗して心筋収縮をサポートするという、生物が生存する上で合目的な作用を持つことが示された。
通常、過剰な活性酸素種は酸化ストレスとして心不全の増悪因子であり、心不全治療の対象とされる。しかし、生理的に必要な活性酸素種の働きを解明した今回の研究成果は、心不全病態の新たな側面を明らかにし、心不全治療における酸化ストレスの扱い方に新しい視点をもたらす可能性がある。
「本研究成果は、心不全の酸化ストレスの成り立ちについても新たな知見を与えるものと考えられ、心不全病態の新たな側面の理解につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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