酸素や栄養が不十分な「がん微小環境」でも生存の膵臓がん細胞、選択的治療薬が必要
富山大学は6月5日、既存の抗がん剤とは異なる作用機序に基づく画期的な膵臓がん治療薬候補化合物の創製に成功したと発表した。この研究は、同大和漢医薬学総合研究所のSuresh Awale准教授、学術研究部工学系の豊岡尚樹教授、岡田卓哉助教、学術研究部医学系の藤井努教授、奥村知之講師、名古屋大学大学院医学系研究科の神田光郎講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Medicinal Chemistry」にオンライン掲載されている。
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膵臓がんは他のがん種と比較して5年生存率が最も低いことから、最難治性固形がんとして位置付けられている。膵臓は身体の深部に位置するため、一般的に膵臓にできる腫瘍は血管が少ないことが知られている。そのため膵臓がん細胞には酸素や栄養の供給が制限された「がん微小環境」においても生き続けられる独特の生存機構が備わっているが、既存の抗がん剤であるゲムシタビンやパクリタキセルは急速に増殖するがん細胞を標的にしていることから上記がん細胞に効果を示さない。また重篤な副作用が問題となっていることからも、「がん微小環境」下で有効に作用する新たな作用機序に基づく治療薬の開発が強く望まれている。研究グループはがん微小環境下におけるがん細胞に対して選択的かつ強力に毒性を示す化合物が新たな膵臓がん治療薬へとつながり得ると期待し、研究を展開してきた。
イソマツ科植物の成分の化学構造を基に新規化合物「3f」を合成、抗がん活性を確認
このような中、イソマツ科植物Plumbago auriculata(ルリマツリ)の成分であるプルンバギンががん微小環境下における膵臓がん細胞に対して選択的に細胞毒性を示すことを明らかにした。そこでプルンバギンの化学構造を基に新規化合物を合成した結果、プルンバギンよりも強力かつ選択的な細胞毒性を示す化合物3fの合成に成功した。作用機序を検討した結果、化合物3fはAkt/mTORシグナル伝達経路を阻害することで細胞毒性を発揮することが明らかとなった。また動物実験においても化合物3fは十分な抗がん活性を示し、容量依存的かつ有意に腫瘍成長を阻害した。
膵臓がん化学療法の選択肢が広がり得る結果、抗がん剤抵抗性の克服にも期待
以上の研究結果は、新規プルンバギン誘導体3fが既存の抗がん剤とは異なる作用機序に基づく新たな膵臓がん治療薬として有望であることを示すのみならず、膵臓がん化学療法の選択肢が広がり得るというインパクトを与える結果である。さらに研究グループが開発した新規プルンバギン誘導体3fは多剤併用療法にも新たな可能性を提供できることから、現在の治療で大きな問題となっている抗がん剤抵抗性の克服にも貢献できることが期待される。「今後は開発した化合物3fの膵臓がん治療薬としての有効性を臨床研究によって検証していく」と、研究グループは述べている。
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・富山大学 研究成果