過去2年間に再発のMS患者30人対象、有効性・安全性・バイオマーカーを検討
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は6月2日、多発性硬化症(MS)経口治療薬OCH-NCNP1について、第2相医師主導治験の成果を発表した。この研究は、同センター神経研究所免疫研究部の山村隆部長らの研究グループによるもの。研究成果は、第64回日本神経学会学術大会のLate Breaking Symposiumで発表された。
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OCH-NCNP1(以下、OCH)は、海綿に寄生する細菌が産生する糖脂質α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)の構造を修飾して、研究グループが創製した化合物。近年では、その類縁体がヒトの腸内細菌から産生され、ナチュラルキラーT(NKT)細胞に働き、免疫系の恒常性維持に寄与していることが明らかにされている。
NCNP病院で実施された第1相試験(First in human試験)において、OCHの安全性、薬物動態、薬効を示唆するバイオマーカーの変化を確認。この結果を受けて、OCHの有効性と安全性を評価するためにプラセボ対照ランダム化二重盲検試験を実施した。今回の治験には、過去2年間に再発(急性の神経症状の悪化)を認めたMS患者30人が参加。各15人がOCHあるいは対照薬(プラセボ)を週1回、24週間服用し、服用期間中の有効性と安全性、バイオマーカーについて検討した。
OCH群でNEDA達成が多い傾向、二次性進行型MSでは有意に達成
治験の結果、OCH群で、頭部MRI上新規病巣や既存の拡大病巣が少なく、年間再発率が低く、MSの治療効果を測る指標の一つであるNEDA(No Evidence of Disease Activity)を達成する症例が多い傾向を認め、有効性を示唆する結果が得られた。NEDAは、さまざまな指標による病気の活動性(Disease Activity)がすべてない(No Evidence)状態を指し、最近ではMSにおける重要な治療目標となっている。今回の治験では、再発イベント、神経機能障害の悪化、MRI画像上の変化の3つの疾患活動性を示すイベントの発生が全てない状態(NEDA-3)について評価されている。また、安全性のプロファイルについて、OCH群と対照群の間で差は認められなかった。
治験に参加した30人のうち、再発寛解型が18人、二次性進行型が12人いた。サブグループ解析の結果、二次性進行型の患者において治療目的となるNEDA達成は、プラセボ群では0%であったのに対し、OCH群で83.3%と有意に高かった(p=0.015)。二次性進行型において、より明確な有効性を示す可能性が明らかとなった。
二次性進行型MS、GM-CSF産生ヘルパーT細胞がOCH投与後に有意に減少
次に、免疫バイオマーカー解析の結果、OCHを投与された二次性進行型MS患者では、病原性リンパ球として知られているGM-CSF産生ヘルパーT細胞が、投与前と比べ投与後に有意に減少していた(p<0.01)。詳細な機序は不明だが、OCHの二次性進行型MSに対する有効性と関連している可能性が考えられたという。
難治性の二次性進行型MS、有効な治療法として期待
MSは通常、再発寛解型MSとして発症するが、一部は神経障害が改善することなく悪化し続けていく二次性進行型MSに移行する。二次性進行型では歩行障害や認知機能の低下などの深刻な問題がゆっくりと進行するが、一般に難治性で、代表的なUnmet medical needsとなっている。今回の治験の結果は、二次性進行型MS患者に対し有効な治療法を提供する可能性を示唆するもので、さらなる検証試験が必要と考えられる、と研究グループは述べている。