南スーダン・ウガンダ北部の子どもに多発した原因不明の病
長崎大学は6月1日、てんかん様症状を主訴とし、脱力してうなずく(nodding)ような発作を特徴とするNodding Syndrome(NS)の原因物質について動物モデルなどを用いて検討し、興奮性アミノ酸が原因物質の可能性があることがわかったと発表した。この研究は、株式会社鎌倉テクノサイエンスの宮内泰氏(同大大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科博士前期課程修了)、同大多文化社会学部の佐藤靖明准教授、同大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科の北 潔 教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Tropical Medicine and Health」に掲載されている。
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NSは、1990年代前半からスーダン(現在の南スーダン)、それに続き2003年頃からウガンダ北部の子どもに多発した原因不明の病気である。こうしたアフリカでの流行に対して、WHOや米国CDCなどの機関を含め多数の研究者が調査を行ってきたが、いまだに病気のメカニズムの解明には至っていない。現在、治療法も確立しておらず、NSを発症した子どもへのケア、またその家族の負担などが大きな問題となっている。NSの原因がわかれば、予防法、およびNSを発症した子どもたちの神経症状の進行の抑制をはじめとする治療法を考える上で貴重な情報となる。
NSは、流行地域分布と子どもの病歴より、寄生虫感染症であるオンコセルカ症との関連性が指摘されている。しかし、なぜ同じオンコセルカ感染症が見られる南米でNSが認められないのか、また、なぜ3歳以降の子どものみにしか発症が認められないのか、といった点が不明であり、病因についてオンコセルカのみでは説明できない。
てんかん様症状を示す物質として知られるカイニン酸、NSとの関連は不明だった
興奮性アミノ酸は、脳内の神経伝達物質であり、自然界では、一般に知られているグルタミン酸の他、毒キノコのイボテン酸、海藻(海人草)に含まれるカイニン酸、海貝におけるドイモイ酸、一部の植物に含まれるキスカル酸など、人が食する可能性のある物の中にも含まれている。その1つであるカイニン酸は、動物にてんかん様症状を示す物質として知られている。しかし、NSと興奮性アミノ酸の関連性は不明だった。
NS患者とカイニン酸投与によるラットモデルの類似性を確認
研究グループは今回、NS患者とカイニン酸投与ラットに観察される臨床症状(nodding症状)、脳における病変部位(大脳皮質、海馬、扁桃体)およびその病理組織学的変化(神経細胞死とグリオーシス)において類似していることを明らかにした。
また、NS患者の脳の神経細胞においてアルツハイマー病で観察されるリン酸化タウタンパク質の沈着が認められることが最近報告されているが、今回の動物モデルにおいても、カイニン酸投与によって誘発された壊死部周辺の神経細胞においてリン酸化タウタンパク質の蓄積が観察された。
黒穂病に感染したトウモロコシ摂取、内戦による精神的苦痛などの要因が関わる可能性
これまでNSと興奮性アミノ酸の関連性が議論されなかった理由として、NSの流行地域の人々がこのアミノ酸を何から摂取したのかが不明だったことが考えられる。研究グループは、カビによる黒穂病に感染したトウモロコシにカイニン酸受容体作動性物質であるトリコロミック酸が含まれることに注目しており、今後、ウガンダ北部の黒穂病のトウモロコシなどの食品や生薬などにおける興奮性アミノ酸について調べる予定だ。
また、トリコロミック酸を含めカイニン酸受容体作動性物質が神経細胞に到達するためには血液脳関門の透過性亢進が必要であるが、その要因として寄生虫感染および内戦などの精神的苦痛の可能性が考えられた。
「今回の結果は、サブサハラアフリカの人々にとって日常の重要な主食であるトウモロコシなどについての注意喚起となる。現在、スーダンの内戦によって多数の難民が発生し、周辺国の難民キャンプに移動しているが、こうした難民キャンプでの援助食糧についても注目していきたい」と、研究グループは述べている。
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・長崎大学 Research