COPD患者の生存率向上につながり得る治療標的が明らかに
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の多くに気道の閉塞をもたらす粘液栓(粘液の塊)が、COPD治療の新たな標的となり得ることが、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院呼吸器・救命医療部門のAlejandro Diaz氏らによる研究で示された。この研究結果は、米国胸部学会(ATS 2023、5月19〜24日、米ワシントン)で発表され、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に5月21日同時掲載された。
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米国では、COPDは4番目に多い死因であり、その有病者数は1590万人に上る。COPDの原因としては、喫煙や長期間にわたる大気汚染への曝露などが挙げられる。COPDはそうしたものへの曝露を避けることで進行を遅らせることはできるが、治癒は不可能だ。さらに、研究グループによると、COPD患者の死亡に影響を与える要因に関しては、現時点ではほとんど分かっていない。その上、死亡に関係する要因の全てが症状として現れるわけではないという。
研究グループは今回、COPDに関する遺伝疫学研究(Genetic Epidemiology of COPD;COPDGene)に2007年から2011年の間に登録された、喫煙歴が10パックイヤー以上の1万198人のうち、4,363人のさまざまな重症度のCOPD患者のデータを用いて解析を行い、初診時の胸部CT検査で確認された気道の粘液栓と全死亡リスクとの関係について調べた。対象者は、年齢中央値が63歳(四分位範囲57〜70歳)で、女性が44%を占めていた。粘液栓が検出された肺の区域数(0〜18区域)で患者を分類すると、0区域が2,585人(59.3%)、1〜2区域が953人(21.8%)、3区域以上が825人(18.9%)だった。
中央値9.5年に及ぶ追跡期間中に1,769人(40.6%)が死亡した。粘液栓が検出された肺の区域数が0区域だった患者の全死亡率は34%だったのに対して、1〜2区域の患者では46.7%、3区域以上の患者では54.1%と高かった。粘液栓が検出された肺の区域数が0区域の患者と比べた全死亡の調整ハザード比は、1〜2区域の患者で1.15(95%信頼区間1.02〜1.29)、3区域以上の患者で1.24(同1.10〜1.41)だった。
Diaz氏は、「これらは粘液栓の増加と全死亡率に関連があることを示した説得力のあるデータだ。ただし、その関連要因については、現時点では何も明らかになっていない」と指摘する。その上で、「COPDを治癒に導くことはできないが、われわれの研究では、粘液栓を壊す治療によってCOPD患者の予後を改善できる可能性のあることが示された。これは、治癒の次に良いことだ」と述べている。
Diaz氏によると、粘液が作られるのは体の正常な免疫反応の一つであるが、通常、作られた粘液は回復過程で咳によって吐き出される。しかしCOPDでは、粘液が過剰に分泌されて排出されにくい状態になり、その結果、粘液栓が形成される。こうした粘液栓は、特定の症状とは強く関連しないため、看過されやすいのだという。
Diaz氏は、「過去40年間にわたってCOPDの治療にはわずか二つの標的しかなかった。一つは気管支拡張の促進、もう一つは気管支の炎症の抑制だ」と言う。一方、粘液に関しては、「COPD以外の疾患に対しては、粘液を標的とした治療法が既に数多く存在しており、開発段階のものもある。したがって、粘液はCOPDの治療標的としても極めて有望だ」との見方を示す。
研究グループは、既存の治療法をCOPD患者に試し、粘液栓を標的とした治療が患者の予後に影響を与えるかどうかを検討する研究を計画中だ。
▼外部リンク
・Airway-Occluding Mucus Plugs and Mortality in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease
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