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パーキンソン病やレビー小体型認知症、血清中に診断マーカー候補を発見-順大ほか

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2023年05月31日 AM11:32

進行性の難病α-シヌクレイノパチー、病態解明に向け大規模スクリーニング実施

順天堂大学は5月30日、パーキンソン病などの患者の血清から、正常型α-シヌクレインタンパク質を凝集させる種となる、病的な構造をもつ凝集体「α-シヌクレインシード」を検出することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科神経学の服部信孝教授(理化学研究所脳神経科学研究センター神経変性疾患連携研究チーム、チームリーダー併任)、波田野琢先任准教授、奥住文美准教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科組織細胞生物学分野の松本弦博士、ルクセンブルク大学神経科学のRejko Krüger教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Medicine」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

パーキンソン病やレビー小体型認知症、パーキンソン症候群である多系統萎縮症では、脳および全身にα-シヌクレインというタンパク質の凝集体が病的に出現し神経細胞死を引き起こすことが知られている。これらの疾患は、凝集しやすい異常構造型α-シヌクレインが脳に蓄積し神経細胞が脱落する疾患で、α-シヌクレイノパチーと総称される。α-シヌクレイノパチーはふるえ、こわばり、動きが鈍くなるといったパーキンソン症状、認知症、自律神経機能障害、睡眠障害など多彩な症状を伴う進行性の難病であるが、現在の治療法は対症療法のみであり根治療法の開発が求められている。

最近の研究で、この疾患は脳だけではなく全身の末梢神経にα-シヌクレインが蓄積することが明らかとなっており、研究グループは「全身への病気の広がりに血液を介した経路が関与している可能性がある」という仮説を立てた。そこで患者の血清から、α-シヌクレインシードを免疫沈降法(IP)により濃縮し、凝集しやすい異常構造タンパク質をreal-time quaking-induced conversion(RT-QuIC)法で増幅することにより、極微量のα-シヌクレインシードを容易に検出するIP/RT-QuIC法を開発した。この方法を用いて、α-シヌクレイノパチーの診断や鑑別、さらには病態解明のために、患者の大規模なスクリーニングを実施した。

開発したIP/RT-QuIC法によりα-シヌクレインシードを患者血清から検出

今回の研究では、α-シヌクレイノパチー患者270名、非α-シヌクレイノパチー患者55名、神経変性疾患ではない健常者128名、parkin遺伝子に変異のある家族性パーキンソン病(PARK2)患者17名、前駆期α-シヌクレイノパチーであるレム睡眠行動異常症(RBD)患者9名の血清サンプルから、免疫沈降法(IP)を用いてα-シヌクレインシードを濃縮し、RT-QuIC法を用いて病的α-シヌクレインを増幅した。

その結果、α-シヌクレイノパチーであるパーキンソン病で95%、レビー小体型認知症で90%、多系統萎縮症で64%、またレム睡眠行動異常症では44%の患者からα-シヌクレインシードが検出された。非α-シヌクレイノパチー全体では9%、対照では8.5%、PARK2患者では0%の検出率であり、α-シヌクレイノパチー群でのα-シヌクレインシードの検出が有意に高い結果になった。また、病理で診断が確定した症例についてはレビー小体病で100%、多系統萎縮症で33%、対照では0%の確率で検出することができた。ルクセンブルク大学との共同研究ではパーキンソン病20名、対照20名、15名の血清サンプルでIP/RT-QuIC法を行ったところ、α-シヌクレインシードの検出率はパーキンソン病で75%、対照で5.0%、および多系統萎縮症で53%となった。つまり、この方法を用いることで、血清によってα-シヌクレイノパチーであるという診断ができる。

α-シヌクレインシードと増幅したα-シヌクレイン凝集体、疾患ごとに構造や性質が異なる

また、各疾患患者群の血清から増幅したα-シヌクレイン凝集体を電子顕微鏡で確認したところ、パーキンソン病では2本の細い線維がねじれた構造を、レビー小体型認知症では数本の線維が複雑にねじれた構造を、また多系統萎縮症では太い線維がねじれる、または直線的な構造を示しており、疾患ごとに構造が異なることがわかった。次に、α-シヌクレイノパチー患者血清から増幅したα-シヌクレイン凝集体が、鋳型としてどのような性質を有するかを、培養細胞を用いて検討した。増幅したα-シヌクレイン凝集体を、GFP結合A53T変異型α-シヌクレインを安定発現させたHEK293T細胞へ導入し、細胞内に形成された凝集体を観察したところ、密度が低い紐型、高密度型、線維が絡み合いやや密度が低い中密度型と三つの異なった構造を持つ凝集体が観察され、各疾患で形成される凝集体の割合が異なることを見出した。これらのことから、形成された凝集体の形状を観察することでα-シヌクレイノパチーの中での疾患の鑑別も可能だとわかった。

また、患者血清由来のα-シヌクレインシードを野生型マウスの線条体に投与し、α-シヌクレインシードの伝播と凝集について観察した。パーキンソン病患者由来のα-シヌクレインシードを投与した場合、投与後3か月から1年後にかけて徐々に病理的に異常なリン酸化α-シヌクレインの凝集体を確認した。一方で、多系統萎縮症患者由来のα-シヌクレインシードを投与した場合では、6か月時点でパーキンソン病患者由来のものと比較して、より多くリン酸化凝集体が蓄積していることがわかった。さらに多系統萎縮症患者由来のものでは、投与の1年後にはリン酸化α-シヌクレインの凝集体は減少し、オリゴデンドロサイトの顕著な脱落が観察され患者脳で見られる病理と類似していた。以上のことから、患者血清由来のα-シヌクレインシードは、各α-シヌクレイノパチーの病態を形成する性質を有していることが示唆された。

α-シヌクレイノパチーの診断や鑑別のマーカーとして有用

今回、研究グループはα-シヌクレイノパチー患者の血液中に存在するα-シヌクレインシードがα-シヌクレイノパチーの診断と鑑別のマーカーとして有用であることを世界で初めて明らかにした。この発見から、病気の進行に血液中のα-シヌクレインシードも関与していることが考えられた。「今後は疾患ごとに異なるα-シヌクレインシードの構造の違いを利用し、血液を用いた簡便かつ有用な診断方法を確立することを目指す。さらに、疾患ごとに凝集体の構造が異なる理由を解明することで、病態解明や疾患修飾療法開発への端緒になることも期待できる」と、研究グループは述べている。

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