医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 糖尿病100人に1人は「治る」、4.8万人の患者データから寛解の頻度が判明-新潟大

糖尿病100人に1人は「治る」、4.8万人の患者データから寛解の頻度が判明-新潟大

読了時間:約 3分52秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年05月30日 AM11:02

一生治らないと言われる糖尿病、実際には改善することが時折経験されてきた

新潟大学は5月29日、全国の糖尿病専門施設に通院中の4万8,000人の2型糖尿病患者を対象に、糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)の臨床データを分析し、一度糖尿病になった人の中で、血糖値が正常近くまで改善し、薬が不要な状態となる(糖尿病が「」する)人が一定の割合で存在することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野の藤原和哉特任准教授、曽根博仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes, Obesity and Metabolism(DOM)」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

これまで「糖尿病を発症すると、一生付き合わなければならない(治らない)」と言われていたが、実際には、一度2型糖尿病と診断され、治療を開始した患者であっても、食事療法、運動療法をはじめとした生活習慣療法、一時的な薬物療法、肥満外科手術あるいはそれらの組合せによる減量などを通して血糖値が正常近くまで改善し、薬剤が不要な状態(2021年国際的に糖尿病の「寛解」と定義)となることが時折経験されてきた。しかし、日本人において、どの程度の患者が「寛解」しているのか、またどのような人が「寛解」しやすいのかについては不明だった。さらに、一度「寛解」した人のうち、どのような人が長期間にわたり「寛解」状態を維持できるかについてもわかっていなかった。

国内糖尿病患者約4万8,000人の臨床データを解析、約1%で寛解に至る

今回、研究グループは、日本全国の糖尿病専門施設に通院中で、登録時に寛解の状態ではなく、血糖の指標であるHbA1c値や体重を継続的に測定されている18歳以上の2型糖尿病患者4万7,320人を対象とし、1989年から2022年において寛解(薬物治療を中止され、HbA1c値6.5%未満が3か月以上継続)したかを追跡した。その後、寛解が1年間続いたかを判定し、「寛解」や「寛解後の再発」と関連する要因を検討した。

その結果、追跡期間(中央値)5.3年に3,677人が寛解に至り、その頻度は1,000人を1年追跡すると10.5人(約1%)となった。観察開始時の患者の特徴を詳細に検討した結果、1)男性、2)40歳未満、3)糖尿病と診断されてから1年未満、4)HbA1c値7.0%未満、5)BMIが高値、6)1年間の減量幅が5%以上、7)薬物療法を受けていない人においては、寛解に至る割合が高く、その中でも、薬物療法を受けていない人、HbA1c値7.0%未満の人、1年間の減量幅が5~9.9%の人、10%以上の人では、1,000人年あたりの寛解発生数が、それぞれ21.7人、27.8人、25.0人、48.2人と上昇していた。

BMIが1年間で減少するほど寛解発生数が上昇、寛解した人の3分の2が再発することも判明

1年間の体重変化に関しては、BMIが0~4.9%低下した場合を基準とすると、5.0~9.9%低下、10%以上低下した場合には、寛解の発生がそれぞれ2.2倍、4.7倍上昇していた。逆に、体重が増加すると寛解が発生しにくくなる傾向が確認された。さらに寛解に達した3,677人を追跡した結果、1年間寛解を維持した人は1,187人にとどまり、3分の2にあたる2,490人が再発(再び血糖値が上昇)したことが判明した。再発した患者の観察開始時の特徴を分析すると、糖尿病と診断されてからの期間が長いことやBMIが低いことに加えて、体重が増加した人において再発が起こりやすい傾向が明らかになった。

日本人においても、食事・運動の治療で糖尿病の寛解が期待できる可能性を示唆

日本人を含む東アジア人は、欧米人に比べてインスリン分泌能力が低く、同じ2型糖尿病患者でも発症メカニズムや肥満の影響が異なる。そのため、日本人では欧米人より寛解率が低いことが予想され、これまで、「糖尿病は治らない」と認識されていたが、実際には日本人においても、欧米人と同様に1%程度の寛解が見られることが初めて確認された。またこれまでの研究は、体重やHbA1c値の測定間隔は3~6か月と長く、寛解の頻度やその関連要因を正確に把握することは困難とされていたが、今回は糖尿病専門施設に継続的に通院している患者のデータを使用することにより、、HbA1c値や薬物治療の経過を1~2か月の短い範囲で、漏れなく追跡することができた。さらに約4万8,000人のビッグデータを分析することで、年齢、血糖値、BMI、体重減量の度合いを詳細に層別化することができた。

また国際的に統一された基準を使用したことで、日本人だけでなく、欧米の研究と比較することが可能となり、人種における血糖が改善する際のメカニズムの違いを考察することができた。日本人は遺伝的に欧米人よりもインスリンを分泌する力が弱いため、欧米人ほどBMIが高くなくても糖尿病になる人も多いが、今回の研究結果から食事、運動をはじめとした治療への取組により、5%程度の減量から糖尿病の寛解が期待できる可能性が示された。

一度寛解に至った場合でも、体重を管理し診察を受けることが再発予防に重要

今回の研究結果から日本人の2型糖尿病において100人に1人が寛解するという実態が明らかになった。その中でも、薬物療法を受けていない人、HbA1c値が7.0%未満の人、減量幅が1年間で5%以上の人では、より寛解する割合が高いことが判明した。つまり、これまで「糖尿病は治らない」と言われていたが、たとえ糖尿病と診断されても、早期から生活習慣改善や薬物治療に取り組み、減量を行うことで2型糖尿病の寛解は可能だということを示している。また一度寛解に至った場合でも、体重を適正に管理し、定期的に診察を受けることが、寛解後の再発を予防するにあたって重要である可能性が示された。なお今回の研究は、観察研究であることから原因と結果の関係を示したものではなく、今後、生活指導や薬物による介入研究を行うことで実際にどの程度の人が寛解し、寛解の状態が持続するかを確認する必要がある。「今後は、構築したデータを基に、寛解に関連する要因の分析を継続し、より多くの人が『寛解』を達成できるようにするにはどうすればよいかについて現場診療に活かす予定である」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大