水圧を利用して、遺伝子を対象臓器の血管から導入する新しい遺伝子導入法
新潟大学は5月25日、これまでに開発してきたハイドロダイナミック遺伝子導入法を用いた遺伝子治療法の開発に向けて、その有効性と安全性を大動物で証明したと発表した。この研究は、同大学医学部医学科総合診療学講座/大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の上村顕也特任教授、ジョージア大学薬学部のLiu教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy-Nucleic Acids」にオンライン掲載されている。
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遺伝子治療は難治疾患に対する治療法として着目されているが、遺伝子を安全かつ効率的に生体に導入する方法論の確立が重要である。具体的には、臨床応用に向けて、低侵襲的で安定した生体への送達技術の開発と安全性の評価、治療効果の確認を前臨床研究する必要がある。そこで研究グループは、これまでに、物理的な力(水圧)を利用して、遺伝子を対象臓器の血管から導入して、臓器の細胞で目的とするタンパク質を発現させる方法であるハイドロダイナミック遺伝子導入法を用いた治療法の開発を目指してきた。これまでにこの方法を用いて、肝硬変に対する遺伝子治療法研究や臨床応用するための大動物での検証、肝臓や膵臓など臓器選択的な遺伝子導入法の開発、膵臓発がんモデル動物の確立を重ねてきた。
ヒヒをモデル動物として、肝臓区域選択的な遺伝子導入での安全性を確認
今回の研究では、研究グループが開発したコンピュータ制御の遺伝子導入システムと、肝臓の区域の肝静脈にカテーテルを挿入する臨床技術を組み合わせて、20kg前後のヒヒに対して、肝臓区域選択的なハイドロダイナミック遺伝子導入を行った。遺伝子導入前後の心電図、心拍数、血中酸素飽和度、血圧、体温などの生理学的な変化、肝機能などの血液生化学的変化、再治療時のアレルギー、免疫反応などを検討し、安全性を確認した。
ヒト血友病の治療遺伝子を発現するプラスミド導入で、長期的な治療効果を明らかに
また、ヒト血友病の治療遺伝子を発現するプラスミドをヒヒに導入したところ、治療効果のレベルを200日間維持し、長期的な遺伝子治療効果を明らかにした。また、治療効果の低下した200日目に再治療を行い、その安全性と有効性を確認した。さらに遺伝子治療を行ったヒヒの肝臓以外の臓器にプラスミドが導入されていないことを確認し、臓器選択的な遺伝子治療効果を確認した。
これまでの研究成果に基づいて、霊長類を対象として肝臓選択的なハイドロダイナミック遺伝子導入法による遺伝子治療法を行い、その有効性と安全性を報告した。さらに、血友病に対する遺伝子治療効果と、再治療の安全性を確認し、臨床応用可能なハイドロダイナミック遺伝子治療法を確立した。
有効な治療が確立されていない難治疾患に対する治療方法として期待される
今回の研究の成果で、臨床応用可能なハイドロダイナミック遺伝子治療法を確立した。現在有効な治療が確立されていない難治疾患に対する治療方法として有用である。「臨床技術と基礎研究との融合という観点から、トランスレーショナルリサーチの発展としても有意義であると考える。難治疾患に対する遺伝子治療法として基礎研究と前臨床研究を進める」と、研究グループは述べている。
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