脳梗塞発早期に抗凝固療法を開始して良いか?
国立循環器病研究センターは5月25日、国際共同ランダム化比較試験「Early vs Late Anticoagulation in Stroke Patients with Atrial Fibrillation」で、非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞に対する発症早期からの直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)投与が、ガイドラインに基づく標準的な時期からの投与と比べた場合に有効かつ安全であることを解明したと発表した。この研究は、同研究センターの古賀政利脳血管内科部長、井上学脳卒中集中治療科特任部長、吉村壮平脳血管内科医長、吉本武史脳神経内科医師、田中寛大脳血管内科医師らが日本代表として参加した国際研究グループによるもの。研究成果は、「New England Journal of Medicine」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
脳梗塞は死因の第4位、要介護疾患の第2位を占める重要な国民病だ。脳梗塞の約3割を占める心原性脳塞栓症は概して重症で、重い後遺症を残すことが少なくない。非弁膜症性心房細動は、心原性脳塞栓症の主要な原因だ。2010年からワルファリンと比べて頭蓋内出血発症が半減し頻回な血液検査を必要としないDOACが臨床で使用できるようになり、より積極的な心房細動の検出と抗凝固薬による予防が普及しつつある。
一方、心原性脳塞栓症発症後早期には脳梗塞再発のリスクとともに、出血性梗塞などの出血性合併症のリスクが高いとされており、脳梗塞発早期に抗凝固療法を開始して良いかわかっていない。2015年に更新された欧州不整脈学会ガイドラインでは専門家の意見に基づいて、一過性脳虚血発作(TIA)では発症後1日、軽症脳梗塞では3日、中等症脳梗塞では6日、重症脳梗塞では12日(1-3-6-12 day rule)から抗凝固薬の開始を推奨している。また、研究グループの最近の観察研究では、各々1日、2日、3日、4日(1-2-3-4 day rule)でも安全かつ有効にDOACを使用出来る可能性があることを報告している。
国際試験でGL標準的DOAC開始と比較、早期開始の安全性と有効性を検討
国際共同ランダム化比較試験「Early vs Late Anticoagulation in Stroke Patients with Atrial Fibrillation(心房細動を伴う脳梗塞発症早期と後期の抗凝固療法比較試験)」には、欧州、アジア、中東から103施設が参加した。同試験の目的は、心房細動を伴う脳梗塞を対象に、ガイドラインに基づく標準的DOACの開始(1-3-6-12 day rule)と比較して、早期の開始の安全性と有効性を推定することだ(優越性または非劣性の検討ではない)。
研究者主導、国際共同、ランダム化2群間比較、エンドポイント盲検評価試験として実施。試験対象は心房細動を伴う急性期脳梗塞患者で、DOAC早期開始群と標準的開始群に無作為に割り付けて試験登録30日以内の脳梗塞再発、症候性頭蓋内出血、頭蓋外出血、全身塞栓症または血管死からなる複合エンドポイントを主要評価項目とした。なお、脳梗塞巣の大きさによりDOAC投与開始時期を分けた(早期開始群:軽症脳梗塞48時間以内、中等症脳梗塞48時間以内、重症脳梗塞6~7日;標準的開始群:各々3~4日、6~7日、12~14日)。副次評価項目は、試験登録30日以内の脳梗塞再発や症候性頭蓋内出血などを設定した。
主要評価項目の複合エンドポイント、早期開始群2.9%<標準的開始群4.1%
目標2,000例に対して2,032例を登録し、2013例(軽症脳梗塞37%、中等症脳梗塞39%、重症脳梗塞23%)が主要解析の解析対象となった。1,006例が早期開始群に、1,007例が標準的開始群に割り付けられた。主要評価項目は、早期開始群29人(2.9%)、標準的開始群41人(4.1%)に発生(差-1.18%ポイント、95%信頼区間[CI], -2.84~0.47)。登録30日以内の脳梗塞再発は、早期開始群で14例(1.4%)、標準的開始群で25例(2.5%)だった[オッズ比(OR)、0.57;95%CI、0.29~1.07]。登録30日以内の症候性頭蓋内出血は、両群とも2例(0.2%)に発生した(OR, 1.02; 95%CI, 0.16 136 to 6.59)。
非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞、発症早期からのDOACによる再発予防の検討が妥当
脳卒中治療ガイドライン2021では、「非弁膜症性心房細動を伴う急性期脳梗塞患者に、出血性梗塞のリスクを考慮した適切な時期にDOACを投与することを考慮しても良い(推奨度Cエビデンスレベル低)」と記載。早期のDOAC開始は、推奨されていない。
同試験の結果、早期開始により脳梗塞再発と症候性頭蓋内出血を含めた複合エンドポイントが約1%減少する可能性が示された。よって、非弁膜症性心房細動を伴う脳梗塞では発症早期からのDOACによる脳梗塞再発予防を検討することが妥当と考えられるとしている。登録遅延と資金不足で早期終了となったTIMING(d)試験では888例が登録され脳梗塞の大きさによらず後期DOAC開始(発症5~10日)に対する早期DOAC開始(発症4日以内)の非劣性が示されている。TIMINGや現在進行中のOPTIMAS(e)(NCT03759938)との統合解析などにより、脳梗塞発症早期からのDOACによる脳梗塞再発予防が確立することが期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース