肥満のない人でも報告される非アルコール性脂肪肝炎、原因は十分に解明されていない
神戸大学は5月24日、脂肪組織においてインスリンが効かないことが、脂肪肝の重症型である非アルコール性脂肪肝炎の原因となることを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門の細川友誠研究員、小川渉教授、静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府栄養生理学研究室の細岡哲也准教授(神戸大学大学院医学研究科客員准教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hepatology Communications」にオンライン掲載されている。
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脂肪肝(脂肪性肝疾患)は、肝臓に脂肪が多く蓄積した状態である。その中でも、飲酒量が多くないにもかかわらず認められる脂肪肝は、非アルコール性脂肪性肝疾患と呼ばれる。多くの非アルコール性脂肪性肝疾患は、進行することはまれであるが、10~20%は非アルコール性脂肪肝炎と呼ばれ、肝硬変や肝がんなどの重篤な病態に進行する場合があることが知られている。非アルコール性脂肪肝炎の有病者数は、日本において200~300万人、全世界では数億人とされており、今後も増加すると見込まれている。
非アルコール性脂肪肝炎の原因に関して、遺伝的要因に加えて肥満が重要な要因と考えられている。実際、肥満者において高率に非アルコール性脂肪肝炎を合併することが知られている。一方、肥満のない標準体重の人あるいは標準体重以下の人でも非アルコール性脂肪性肝疾患やその重症型である非アルコール性脂肪肝炎が認められることが特にアジア人を対象とした研究において報告されている。このようなことから推測されるように、非アルコール性脂肪肝炎の原因は単一ではなくさまざまな要因が複合的に関与するものと考えられているが、非アルコール性脂肪肝炎の原因については十分に解明されていない。
肥満を来さない脂肪組織インスリン抵抗性マウス、GAN食飼育で非アルコール性脂肪肝炎が進行
インスリンは代謝を整える重要なホルモンであるが、インスリンが効きにくい状態になると糖尿病をはじめとする代謝性疾患が発症・進展すると考えられている。このようなインスリンが効きにくい状態を「インスリン抵抗性」と呼ぶ。インスリンの代謝作用はPDK1と呼ばれるタンパク質の働きによって仲介されており、PDK1が働かないようにした細胞や組織では、インスリンが効かなくなる。研究グループは、脂肪組織でPDK1が働かないようにしたマウス(脂肪組織インスリン抵抗性マウス)にGAN食と呼ばれる脂肪・コレステロール・フルクトースを過剰に含む飼料を16週間投与し、食事因子と脂肪組織インスリン抵抗性が、非アルコール性脂肪肝炎の進展にどのように影響するかを検討した。
通常マウスをGAN食で飼育すると、通常食で飼育した場合と比べて、肝臓において炎症や線維化に関わる遺伝子の量が増加した。一方、脂肪組織でPDK1が働かないようにした脂肪組織インスリン抵抗性マウスにGAN食を投与すると、通常マウスをGAN食で飼育した場合と比べ、肝臓の炎症や線維化に関わる遺伝子の量がさらに増加し、非アルコール性脂肪肝炎が進行した。この結果から、脂肪組織のインスリン抵抗性は、高脂肪・高コレステロール・高フルクトース食によって誘導される炎症と線維化をさらに悪化させることにより肝病変を進展させることが明らかとなった。
また、GAN食を摂取した脂肪組織インスリン抵抗性マウスは、肥満を来さないことから、脂肪組織インスリン抵抗性は、アジア人で多く報告されている肥満を伴わないやせ型の非アルコール性脂肪肝炎の原因に関連するものと考えられた。
脂肪組織から肝臓への遊離脂肪酸流入と、アディポカインの肝臓への作用が原因と想定
インスリンは、本来、脂肪組織において余剰な栄養を脂肪として蓄える働きがあるが、脂肪組織でインスリン抵抗性があると、脂肪組織に脂肪を蓄えることができず、脂肪組織から肝臓に遊離脂肪酸が流れ込むことになる。この結果、肝臓の脂肪沈着やその後の炎症、線維化が促進されることで非アルコール性脂肪肝炎が進展すると考えられる。脂肪組織のインスリン抵抗性が肝臓の炎症と線維化を悪化させるもう一つのメカニズムとして、脂肪組織から分泌され全身の臓器に作用を及ぼすアディポカインと呼ばれる因子の関与が考えられる。今回、脂肪組織でPDK1が働かないようにした脂肪組織インスリン抵抗性マウスの脂肪組織において、90種類以上のアディポカインの量が変化することを見出した。脂肪組織のインスリン抵抗性によって、量が変化したアディポカインが肝臓に働くことで、肝臓の炎症や線維化が促進される可能性が想定される。
やせ型の非アルコール性脂肪肝炎の病態解明、新しい治療法の開発につながると期待
脂肪組織のインスリン抵抗性は、肝臓の炎症と線維化を促進することにより、非アルコール性脂肪肝炎を悪化させることが明らかとなった。このようなメカニズムは、特にやせ型の非アルコール性脂肪肝炎の病態に関与するものと考えられる。「今回同定した、脂肪組織のインスリン抵抗性によって量が変化するアディポカインの量あるいは作用を調節することができれば、非アルコール性脂肪肝炎の新しい治療法の開発につながるものと期待される」と、研究グループは述べている。
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