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着床不全の原因となる子宮内膜のエピゲノム異常を明らかに-東大病院ほか

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2023年05月23日 AM11:19

着床時の子宮内膜間質細胞分化の制御の仕組み、いまだ不明点が多い

東京大学医学部附属病院は5月18日、ヒト着床期子宮内膜や遺伝子改変マウスを用いた研究から、抑制的ヒストン修飾を介したエピゲノムの調節によって、子宮内膜に適切な細胞分化と正常な胚浸潤が起こることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同病院女性診療科・産科の藍川志津特任研究員、東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座の福井大和大学院生(医学博士課程:研究当時)、廣田泰准教授、大須賀穣教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Death & Disease」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

不妊症は、全世界のカップルの15%が直面する健康問題である。生殖医療において体外受精・胚移植の技術進歩は目覚ましく、日本では全出生児の14人に1人が体外受精・胚移植によって誕生している。その一方で、良好胚を選別し移植しているにも関わらず着床が成立しない着床不全が生殖医療最大の課題となっているものの、診断・治療法は確立していないのが現状である。

着床は、子宮内に入った胚が子宮内膜と相互作用する最初のステップで、その後の妊娠維持・胎児発育を大きく左右する。着床過程は、胚が子宮内膜に接着する過程(胚接着)と、その後に胚の最外層に位置する栄養膜細胞が子宮内膜に入り込む過程(胚浸潤)を経て成立する。子宮内膜は主に胚が最初に接する上皮細胞層とその下にある間質細胞層に大別される。胚が子宮内膜上皮細胞層に接着すると、その周囲に存在する間質細胞層は多核の性質をもつ脱落膜と呼ばれる細胞へと分化し、その後胚は上皮細胞層を通り抜け間質細胞層のなかに浸潤していく。一方で、間質細胞分化の制御の仕組みについては不明な点が多く残されていた。

抑制的ヒストン修飾に関わる酵素のEZH2遺伝子、着床不全群で発現低い

研究グループはまず、ヒト着床期子宮内膜における網羅的遺伝子発現解析を行い、妊娠群と着床不全群とで発現に差がある遺伝子を探索した。その結果、着床不全群で発現量が多い遺伝子が、抑制的エピゲノム修飾であるヒストンH3のリジン27トリメチル化()の標的遺伝子群に属していることを見出した。加えて、H3K27me3の修飾に関わる主要な酵素であるEnhancer of ZesteHomolog2()の発現が着床不全群で低いことがわかった。

重篤な不妊を示すEZH2欠損マウス、間質の細胞分化に異常

次に、EZH2の子宮内膜における機能的意義を調べる目的で、EZH2を子宮特異的に欠損したマウスを用いて解析を行ったところ、EZH2欠損マウスは新生仔をほとんど産まず重篤な不妊になった。EZH2欠損子宮での不妊のメカニズムを探るため、マウス着床期子宮内膜を用いたRNA-seq解析を行うとともに、H3K27me3に対するChIP-seq解析を行った。その結果、EZH2はH3K27me3修飾を介し、細胞周期遺伝子の特に有糸分裂に関わる遺伝子群の発現を抑制していることを見出した。この結果と合致するように、胚浸潤期の子宮内膜を組織形態学的に観察したところ、EZH2欠損子宮では間質が細胞増殖を続け、通常の脱落膜で起こる多核の細胞分化がほとんど起こっていないことがわかった。この間質の細胞分化異常は、子宮内膜深部へと胚が浸潤することを妨げ、最終的に着床不全が起こることがわかった。

着床不全の新しい診断法や治療法開発への可能性に期待

研究の結果、EZH2による抑制的ヒストン修飾が子宮内膜の細胞分化を誘導し胚浸潤の成立に寄与していることが判明し、着床を調節する新たなメカニズムを解明することができた。「着床期子宮内膜の細胞分化の評価が着床能の指標として利用できる可能性や、子宮内膜の細胞分化の状態を改善させる何らかの治療法を開発することで着床不全が克服できる可能性などが期待される。着床不全の新しい診断法の開発に向けてさらに臨床研究を展開していく予定である」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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