くも膜下出血発症直後の脳血流低下に交感神経系が関わっているかは不明
金沢大学は5月15日、くも膜下出血後早期における交感神経系の過活動がもたらす悪影響を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系神経解剖学の石井宏史助教、堀修教授、脳脊髄機能制御学(脳神経外科学)の上出智也講師、中田光俊教授、同大大学院医薬保健学総合研究科医学専攻博士課程の出村宗大氏らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Stroke」オンライン版に掲載されている。
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くも膜下出血は、脳内出血や脳梗塞と比較して若年で発症し生命を脅かす疾患だ。発症時のみならず、その後約2週間の病態が神経学的予後に重要な役割を果たすことが知られているが、そのメカニズムはいまだ解明されていない。
そんな中、近年では「早期脳損傷」という概念が多くの研究者の関心を集めている。早期脳損傷は、くも膜下出血発症直後に起こる病態で、これがその後約2週間の病態ならびに最終的な予後に直結すると考えられている。これまでさまざまな研究が行われてきたが、患者の予後に改善は得られていないのが現状だ。
くも膜下出血の発症直後には、交感神経系の過活動が頭蓋内だけでなく全身に起こることが知られている。また、発症直後の脳血流の低下が予後の悪化につながることも報告されている。しかし、この脳血流の低下の原因について解明する研究はこれまでほとんど行われていない。そこで研究グループは今回、くも膜下出血発症直後の脳血流の低下に交感神経系が関わるのではないかと考え、研究を行った。
発症直後の交感神経系過活動が上頸神経節を介して脳血流を低下させ、予後に悪影響を及ぼす
研究では、金沢大学附属病院でくも膜下出血に対して治療を行った患者データの解析に加え、マウスにくも膜下出血を引き起こしたモデルを用いることで、脳血流の低下と交感神経系の関連と、それらがくも膜下出血の予後に与える影響を解析した。
その結果、くも膜下出血発症直後に起こった交感神経系の過活動が、頸部の交感神経節の一つ、上頸神経節を介して脳血流の低下を引き起こし、予後に悪影響を及ぼすことが明らかとなった。
重度の患者で発症後急性期の脳血流障害を確認、交感神経過活動により心電図にも変化
さらに、患者のデータの中で、くも膜下出血発症後に行う検査「脳血管撮影」での脳血流障害を比較した。その結果、退院時の神経障害が重度の患者では、より軽度の障害だった患者と比較して、発症後急性期の脳血流障害が顕著に表れていた。また、全身に及ぶ交感神経系の影響のうち、心臓への影響を心電図で評価したところ、交感神経の過活動による心電図変化が見られた患者で脳血流の重度な障害が確認された。
頸部交感神経節を取り除いたくも膜下出血マウスの脳血流改善・神経障害抑制を確認
一方、くも膜下出血を引き起こしたマウスの脳血流を分析すると、くも膜下出血発症直後では脳への血流が十分に行き届いていない結果が得られた。そこで、脳血管の収縮機能に関連すると報告されている頸部の交感神経節の一つ、上頸神経節をあらかじめ取り除いたマウスで同様にくも膜下出血を引き起こした。
その結果、頸部の交感神経節のないマウスでは脳血流の顕著な改善がみられた。さらに、その後のマウスの神経障害も抑えられたとしている。
患者の予後を改善する新規治療法開発に期待
今回の研究により、くも膜下出血発症直後の交感神経系の過活動が、脳血流低下を引き起こし、患者の予後を悪化させていることが明らかになった。
「今後、くも膜下出血における交感神経系の役割はさらに注目すべき研究領域であり、患者の予後を改善する新たな治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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・金沢大学 プレスリリース