帝王切開で生まれることが小児期早期の肥満を増加させる、海外報告
富山大学は5月17日、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを用いて、分娩様式(帝王切開であるか経腟分娩であるか)と3歳時点での小児肥満との関連性について調べ、帝王切開で出生した子は経腟分娩で出生した子と比較して、肥満になりやすい傾向が認められたと発表した。この研究は、同大学術研究部医学系小児科学講座の寺下新太郎医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
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小児期の肥満は成人まで持ち越されやすく、小児期に肥満であった人は肥満でなかった人と比較して成人期に肥満となる確率が5倍以上になるといわれている。近年、小児期早期に肥満になりやすい人の特徴の一つとして、帝王切開で生まれたことが関係するのではないかと多くの研究者たちが報告している。また小児期の肥満のなりやすさを考えるうえで、人種や民族といった要素も強く関連する。これまでアメリカ、イギリス、中国などから帝王切開で生まれることが小児期早期の肥満を増加させるということが報告されてきたが、日本人を対象にした報告はなかった。
約6万組の親子を調査、肥満の定義は男子BMI≥17.89、女子BMI≥17.56
この研究では、エコチル調査に参加している妊婦とその子6万769組を対象として、分娩様式(帝王切開であるか経腟分娩であるか)と3歳時点での小児肥満との関連性について調べた。体格の評価は Body Mass Index(BMI)を用いて行い、国際肥満タスクフォースが示している3歳時点での肥満基準(男子 BMI≥17.89、女子 BMI≥17.56)を超過している人を小児肥満と定義した。肥満はさまざまな原因で引き起こされるため、分娩様式以外に子の体格に影響を及ぼすと考えられる条件(妊婦の体格、子の出生時の週数・体重など)を一定にするための統計学的手法を用いて解析した。
帝王切開出生の子は男女共に肥満になりやすい傾向、世界基準からは下回る
調査の結果、帝王切開で出生した子は経腟分娩で出生した子と比較して、男女ともに小児肥満になりやすいことがわかった。
日本人はもともと肥満の少ない民族と言われている。今回の研究に参加した妊婦の中で、成人の肥満の目安となるBMI 25を超えていたのは9.8%だけだった。世界基準では、BMI 25を超える妊婦が27%いることを考えると、非常に少ない数字といえる。同じように、3歳時点での小児肥満の子は8.1%のみで、他国の23~30%と比較すると非常に少ない数字だった。
関係が指摘されている腸内細菌叢との関連などを直接的に調べ、原因解明へ
日本人は肥満に脆弱であり、他人種と比較して肥満に起因したり、関連する健康障害を発症しやすいといわれている。研究では肥満になりにくい日本人において、帝王切開出生が小児肥満のリスクとなることを初めて示した。小児期早期から肥満になりやすい体質であることに注意して生活していくことは、将来的な肥満に関連する健康障害を防ぐことにつながる可能性がある。
研究結果について考慮すべき限界点がいくつかある。1つ目は帝王切開出生が小児肥満を引き起こす直接的な理由について解明できていないことである。これまでの報告では、帝王切開出生では分娩時に母親の腸内細菌に暴露されることなく生まれてくるため、母親由来の良質な腸内細菌そうの定着が遅れて、その結果肥満になる可能性が示されている。今回の研究では、子の腸内細菌叢に変化があったかどうかは調べられていない。2つ目は、3歳時点で増加した小児肥満が本当に成人期まで持ち越され、肥満に関連する健康障害を増加させるかどうかを検討できていないことである。「今後は直接的に腸内細菌叢の変化を調べたり、帝王切開で出生した子に、肥満に関連する健康障害が増加するかどうかについて確かめていく必要がある」と、研究グループは述べている。
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・富山大学 プレスリリース