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「レムデシビル」で心機能の副作用が起こる仕組みを解明-東北大ほか

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2023年05月17日 AM11:13

レムデシビルで起こる心機能への副作用の仕組みは不明だった

東北大学は5月16日、COVID-19治療薬の副作用の仕組みを解明したと発表した。この研究は、同大加齢医学研究所の小川亜希子助教、魏范研教授、同大医学部生の大平晟也氏、同大大学院薬学研究科の井上飛鳥教授らと、九州大学大学院薬学研究院、国立医薬品食品衛生研究所との共同研究によるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

レムデシビルは約50か国で承認されている、最も使用症例数の多いCOVID-19治療薬の一つ。アデノシンという核酸のアナログ製剤で、SARS-COV-2由来のRNA依存性RNAポリメラーゼを阻害し、ウイルスRNA合成を阻害することで薬効を発揮する。静脈注射で投与後、加水分解されて代謝活性型のヌクレオシド体(GS-441524)となり、さまざまな臓器や中枢神経に移行することが知られる。

同剤は元来エボラウイルス感染症の治療薬として開発されたが、SARS-CoV-2に対して良好な活性を示すことが発見されたことでCOVID-19治療薬として使用されている。多国間医師主導治験として実施された欧米・アジアでのランダム化比較試験「ACTT1」では、標準治療群に対し、レムデシビル群で臨床的改善までに要する時間が短縮されることが示されている。

一方、WHOデータベースに基づく最近の研究で、レムデシビルが徐脈や低血圧といった心臓や血管に由来する副作用と関連する可能性があり、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞に対して細胞毒性が報告されたことから、副作用について警鐘が鳴らされた。しかし、そのメカニズムについては不明であり、これらの心毒性に対する特異的な対処方法もあった。

ヌクレオシド基/McGuigan基がウロテンシン受容体と結合

研究グループは今回、レムデシビルがアデノシン骨格を持つため、アデノシンのように細胞膜に存在する受容体に作用することで予期しない副作用をもたらしているのではないかと想定し、研究を行った。350種類近い受容体に対する活性能を調べたところ、レムデシビルはウロテンシン受容体に活性を有していることが判明。このウロテンシン受容体活性能は、レムデシビルのヌクレオシド体(GS-441524)や構造アナログ、あるいは他の抗ウイルス薬にはなかった。

そこで、なぜレムデシビルが特異的にウロテンシン受容体に結合し、活性化できるのかを調べるため、ホモロジーモデリングで予測構造から調べた。その結果、レムデシビルのヌクレオシド基だけでなく、プロドラッグとしてドラッグデリバリーを高めるために付与されている「McGuigan基」が、それぞれウロテンシン受容体と相互作用することで、オルソステリックな結合をとっていることがわかった。

さらに、レムデシビルの心臓に対する機能を調べるために、マウス成獣の心筋細胞の面積を測定し、収縮機能を調べた。その結果、収縮により面積が減少したコントロール群と比較してレムデシビル投与群では有意に細胞面積が大きく、収縮機能障害による心毒性が示唆された。

レムデシビルの心臓への影響は「」を介したものと判明

次に、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞を、多点電極システム(MEAシステム)を用いてヒトQT時間に相当する指標を測定した。その結果、レムデシビルによる延長が認められ、さらにウロテンシン受容体拮抗剤を用いることでこれが抑制されることが判明。同様に、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞の電気生理学的特性をパッチクランプ法で評価すると、活動電位持続時間(FPD)がレムデシビルにより延長し、ウロテンシン受容体経路の阻害により抑制されることもわかった。

さらに、ラット新生仔より単離した心筋細胞を電気刺激(ペーシング)しながらその収縮力を測定したところ、レムデシビルによる収縮力の低下と、ウロテンシン受容体拮抗剤によるその抑制が認められた。つまり、複数の評価系において、レムデシビルの心臓への影響はウロテンシン受容体を介したものであることが明らかになった。

ウロテンシン受容体に、レムデシビルに対する活性が増加する4つのバリアントを発見

薬剤を投与した際には副作用が出る人と出ない人に分かれるが、現在はそれを予測する手段も理由もほとんどわかっていない。一方、コーディング領域に存在する単一塩基バリアント(Single nucleotide variant: SNV)が薬剤感受性に影響することが報告されている。

そこで、東北大学東北メディカル・メガバンク機構が構築した1万4,000人の日本人のデータベース(日本人全ゲノムリファレンスパネル 14KJPN)を調べたところ、ウロテンシン受容体には2,000を超えるバリアントが存在し、その中で1アミノ酸置換を伴うミスセンス変異が110種類存在していた。この110種類について、それぞれバリアントを導入した受容体を作成し、レムデシビルに対する活性を網羅的に調べた。

その結果、バリアントを導入したほとんどの受容体において、レムデシビルに対する活性が不変もしくは低下する中で、レムデシビルに対する活性が増加する4つのバリアントを見出した。これらの4つのバリアントは、頻度は低いものの予期できないレムデシビルの心臓副作用に関連している可能性があるという。

レムデシビルの副作用が、受容体経路を抑制することで改善される可能性

今回、COVID-19治療薬として使用されるレムデシビルの心機能に対する影響が、ウロテンシン受容体経路による可能性が示された。同研究成果により、これまで治療法が存在しなかったレムデシビルの副作用が、受容体経路を抑制することで改善される可能性が示された。

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