合成洗剤などが上皮バリア機能障害を誘導する環境要因である可能性
国立成育医療研究センターは5月16日、洗濯用洗剤などに含まれる界面活性剤が、気道上皮細胞に直接作用し、上皮細胞から放出される炎症物質(IL-33)を誘導することにより喘息様気道炎症を引き起こすメカニズムを解明し、さらに、これら界面活性剤は、実際の生活環境にあるほこりの中にも一定量存在していることも明らかにしたと発表した。この研究は、同センター免疫アレルギー・感染研究部の森田英明室長、松本健治部長、福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科の齋藤杏子医師、藤枝重治教授、チューリッヒ大学 Cezmi A. Akdis教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」に掲載されている。
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気管支喘息をはじめとしたアレルギー疾患が急激に増加した原因の一つとして、近代化に伴って衛生的な環境となり幼少期に微生物(細菌やウイルス)へ曝露される機会が減ったことが原因であるとする「衛生仮説」が広く知られている。近年、この「衛生仮説」に加えて、人間の体が外界と接する部分に存在する細胞(上皮細胞)のバリア機能が何かしらの要因で障害されることがアレルギー疾患発症の要因であるとする新たな仮説「上皮バリア仮説」が提唱された。上皮バリア機能障害を誘導する環境要因として、大気汚染物質などとともに、家庭でも使用されるようになった洗濯用洗剤をはじめとした合成洗剤など、さまざまな因子が影響する可能性が示唆されている。
職場で発生する原因物質により発症する喘息は職業性喘息(Occupational asthma)と呼ばれるが、この職業性喘息患者は、クリーニング業に従事する人の割合が多いことが知られている。これらの疫学調査から、クリーニング業で使用する合成洗剤等が気管支喘息の発症に関与している可能性が示唆されていたが、そのメカニズムは明らかではなかった。
洗濯用洗剤が気道に吸入されると、生体内で喘息様気道炎症を引き起こす
研究グループは、合成洗剤を吸入することで生体において喘息様気道炎症が引き起こされるメカニズムを、動物実験と培養ヒト気管支上皮細胞を用いて検討した。また、実際の生活環境中に合成洗剤などに含まれる界面活性剤が存在するのかどうかも調べた。
マウスに洗濯用洗剤、または洗剤に含まれる界面活性剤を吸入させる実験を行ったところ、気道のバリア障害とともに、喘息のような好酸球性気道炎症が誘導されることを明らかになった。
界面活性剤吸引<IL-33増加<ILC2活性化<喘息様気道炎症を誘導
洗濯用洗剤が気道上皮細胞に直接作用し、酸化ストレス誘導を介して炎症物質であるIL-33の産生を増強することで、喘息様気道炎症の誘導に関与することわかった。さらに、洗濯用洗剤による喘息様気道炎症には、IL-33によって活性化された2型自然リンパ球(Group2 innate lymphoid cell:ILC2)から産生されるサイトカインが関与していることも判明した。
リビングの床、ソファなどのほこりから一定量の界面活性剤を検出
生活環境中に洗濯用洗剤などに含まれる界面活性剤が存在するのかどうかを明らかにするため、ボランティアの家庭内(リビングの床、ベッド(または布団)、ソファ(またはクッション)、洗面所/脱衣所)から掃除機を用いて粉塵を収集した。その粉塵中に含まれる界面活性剤を臨界ミセル濃度測定によって検討したところ、収集した家庭内の粉塵全てから、一定量の界面活性剤が検出された。これらの研究成果から、生活環境にあるほこりにも界面活性剤が一定量存在しており、日常生活の中でほこりとともに吸入される可能性があることが明らかになった。
衣服に残留する界面活性剤がほこりの中に落ちている可能性
家庭内の粉塵から検出された界面活性剤は、洗面所/脱衣所よりも、リビングの床やベッド(または布団)、ソファ(またはクッション)などで、多い傾向だった。また、家庭内の粉塵から検出された界面活性剤の量は、家庭ごとに有意に異なることも明らかになった。生活環境にあるほこりの中に界面活性剤が存在する理由は明らかにされていないが、洗濯後の衣服にも界面活性剤は一定量残留することが示されていることや、家庭の中でも人が滞在する時間が長い場所のほこりで比較的多く界面活性剤が検出されることから、衣服に残留する界面活性剤がほこりの中に落ちている可能性が示唆される。
界面活性剤による影響も念頭においたアレルギー疾患の研究が求められる
研究により、洗濯用洗剤などに含まれる界面活性剤が、気道上皮細胞に直接作用し、バリア機能障害と炎症物質の誘導を介して喘息様気道炎症を引き起こすことが解明された。これらにより洗濯用洗剤などに含まれる界面活性剤が、上皮バリア仮説を裏付ける環境要因の一つになり得るという事実も明らかになった。また、生活環境中のほこりにも界面活性剤が一定量存在し、日常生活の中でほこりとともに吸入される可能性があることもわかった。一方、生活環境中のほこりの中の界面活性剤と気管支喘息の発症との因果関係は不明のままだ。「アレルギー疾患を発症する要因は単一ではなく多岐に渡るため、洗剤を使わないなど極端に生活習慣を変えることは望ましくないが、界面活性剤による影響も念頭におき、さらなる研究を進めていくことが求められる」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース