根本的治療法が未確立の「膠芽腫」、診断マーカーや治療標的の発見が急務
広島大学は5月13日、細胞の増殖を抑制するタンパク質「OASIS」を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科分子細胞情報学の齋藤敦准教授、今泉和則教授、徳島大学先端酵素学研究所ゲノム医科学分野の片桐豊雅教授、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科創薬薬理学分野の金子雅幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。
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細胞周期の進行にブレーキをかけ、細胞増殖を抑制する重要なタンパク質としてp53が知られている。p53はその機能から、がん抑制因子としても働くが、p53と同等レベルで細胞増殖抑制機能をもつタンパク質は未発見だった。
細胞周期の制御に異常をきたすとさまざまながんの発症につながる。その中でも「膠芽腫」は、脳腫瘍として知られる中枢神経原発悪性腫瘍のうちで最も頻度が高い難治性腫瘍だ。一般的に放射線治療や抗がん剤投与などの維持療法が行われるが、5年生存率が約10%、平均余命は約2年に留まっており、明らかな効果が認められる治療法は確立されていない。そのため、膠芽腫の有効な診断マーカーや治療標的の確定と、それらを元にした根本的治療戦略の確立が強く望まれている。
p53と同等の細胞増殖抑制機能をもつ「OASIS」を発見、膠芽腫ではメチル化で発現低下
OASISはアストロサイトで細胞老化が誘導される際に発現が増加するタンパク質として知られていた。今回、研究グループがその機能を詳細に調べると、p53と同等の細胞増殖抑制機能をもつことが判明。
さらに、多くの膠芽腫患者や膠芽腫細胞においてOASISの発現が低下していることを見出し、その原因はDNAがメチル化と呼ばれる修飾を受けているためであることを突き止めた。モデルマウスを用いた実験において、エピゲノム編集という方法でDNAメチル化修飾を取り除くと、OASISの発現が回復してがん細胞の増殖が抑制されたという。
さまざまながん種の診断・治療戦略確立に発展する可能性
DNAメチル化修飾の解除を標的とした治療薬はまだ存在しない。同法を改良してメチル化解除の高効率化を図り、患者に対する適用法を検討してがん細胞への選択性を高めることで膠芽腫の根本的な治療法確立に結び付くことが期待できる。
「OASIS遺伝子のメチル化を検出することで、膠芽腫の早期診断と治療標的の確定につながる。さらに、膠芽腫以外のがん種でもOASIS遺伝子のメチル化を発見しており、今回の成果がさまざまながん種の診断・治療戦略確立にも発展する可能性がある」と、研究グループは述べている。
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