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男女間の不平等が脳構造に関連、社会的・文化的な要因が脳の発達に影響-京大ほか

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2023年05月12日 AM11:25

日々受けた刺激で変化する脳、性別間の不平等でも影響を受ける可能性がある

京都大学は5月10日、29か国にわたる多施設共同研究により、18~40歳までの健康な男性3,798人と女性4,078人の実験参加者について、ジェンダー・ギャップ指数およびジェンダー不平等指数から算出した性別間の不平等の指標とMRIによる脳の構造画像との関連を解析したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の植野司特定病院助教、医学研究科の宮田淳講師、チリカトリック大学のNicolás Crossley助教、アメリカ国立衛生研究所のAndré Zugman研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

性差による不平等は世界中に存在し、特に女性は教育や就労、公的な地位など、社会におけるさまざまな場面で不利な状況にしばしば置かれる。この不平等の指標として世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数、国連開発計画によるジェンダー不平等指数があり、毎年報告されている。このうちジェンダー・ギャップ指数からは、男女間の不平等という問題と、女性がメンタルヘルス上の問題に苦しみ易く、また低学歴となりやすいことと関連していることが既に明らかにされている。

このような性別による不平等は、脳の大きさや大脳皮質の厚みといった構造上の性差とも関連している可能性がある。脳構造の性差にはホルモンや遺伝子の違いが影響しているかもしれないが、そのような、いわばオスとメスとの違いだけが脳の性差の原因とは限らない。実際、脳は日々の暮らしのなかで受けた刺激によって変化することが知られている。従って男女の格差が大きく、不利な社会状況での生活を余儀なくされる女性は、そのために脳の発達に不利な影響を受ける可能性がある。研究グループは、性差による不平等によって生じる生活環境の違いが脳に影響し、それが脳の性差と関係するのか否かを明らかにすることで、公共政策において男女間の不平等という問題をさらに取り上げ、その解消をはかるべきか否かという社会的な意思決定について意義ある知見をもたらすと考えた。

29か国の脳と性別間の不平等指数を比較、不平等なほど右半球の大脳皮質が女性で薄い傾向

今回、研究プロジェクトに参加した29か国の実験参加者の脳について、大脳皮質の厚さと表面積、さらに海馬の体積を求めた。また、ジェンダー・ギャップ指数とジェンダー不平等指数を組み合わせて性別間の不平等指数を参加国ごとに算出した。そして脳の構造に関するデータと性別間の不平等指数との関連を調べた。脳の構造に関するデータとして、29か国、139か所のオープンアクセスの脳画像データベースから得られたデータ、ならびに共同研究施設において取得したデータをもとに、18歳から40歳までの健康な成人女性4,078人、成人男性3,798人の1.5テスラもしくは3.0テスラの核磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging:)の脳の構造画像データを用いた。

性別間の不平等指数を算出するために用いたジェンダー・ギャップ指数、ジェンダー不平等指数は新型コロナウイルス感染症が世界的に流行する以前の2019年のものである。その結果、右大脳半球および左大脳半球の皮質厚の平均と性別間の不平等との関係については、右大脳半球の皮質厚の男女差が性別間の不平等の程度と関連することが示された。すなわち性別間の不平等が大きいほど右大脳半球の大脳皮質は男性に比べて女性で薄くなる傾向が見られた。この傾向は、各国の経済発展の差による影響をGDPに基づいて差し引いても認められた。その一方で、男性の右大脳半球の平均皮質厚と性別間の不平等との間には特に関係は認められなかった。

右前部帯状回尾側、右眼窩前頭回、左外側後頭葉の3つの領域で不平等の影響大きい

次に、大脳皮質を68個の領域にわけて、各領域の皮質厚と性別間の不平等との関係を調べた。その結果、右前部帯状回尾側、右眼窩前頭回、左外側後頭葉の3つの領域において、男女間の不平等が大きい国ほど大脳皮質厚の男女差が大きく、男性に比べて女性の大脳皮質が薄いという結果が見られた。また性別間の不平等がなければ大脳皮質厚の男女差は見られず、さらに右前帯状回尾側の大脳皮質は女性がより厚いという傾向が認められた。この右前部帯状回尾側における性別間の皮質厚の差と性別間の不平等との関係は、経済状況の影響をGDPに基づいて差し引いた後も認められた。

なお、大脳半球全体ならびに各領域の表面積、海馬の体積、頭蓋内の容積と各国の性別間の不平等との間には関係は認められなかった。男女間での皮質厚の差が見られた領域のうち、前部帯状回と眼窩前頭回は、困難に耐え忍んでいるときや、不公平な状況において他人と自分とを比べている時に活動することが報告されている。また、うつ病ではこの領域の大脳皮質が薄いこと、心的外傷後ストレス障害(PTSD)ではこの領域の体積が低下していることが報告されている。また、ストレスは神経細胞の変化を引き起こし、目に見えるほどの変化を脳にもたらすこと、幼少期に受けたストレスは成人後も大脳皮質の厚みに影響することがわかっている。今回の研究の結果からは、性別間での不平等により女性が不利な環境に曝されつづけ、そのために生涯を通じて脳に対するストレスの影響を受けているということが考えられる。

不平等な環境が女性の脳に潜在的な悪影響及ぼす可能性、さらなる追跡調査が求められる

29か国におよぶ参加者から得られた国際的なデータを分析した結果、それぞれの国において男女間の不平等と女性の平均的な大脳皮質の厚みが関連することがわかった。この結果は、脳の性差の一部は環境によって形成されること、さらに女性にとって不平等な環境が女性の脳にとっても潜在的に悪影響を及ぼしている可能性を示している。研究の結果は、ジェンダー間の平等を実現する政策にとっての科学的なエビデンスになるものと期待される。

ただし今回の研究では、女性の脳にとって問題となる男女間の不平等はどのようなものかということまでは調べられなかった。社会における男女の不平等に含まれる要素のうち脳の性差に最も影響しているものは何か、社会的な環境が脳の発達に大きな影響を与える時期はいつなのかを明らかにするという追跡調査が、ジェンダー間の平等に向けて社会を変革するための具体的な対策を明らかにするために求められる。「今回の研究ではMRIによって得られた脳のデータを用いており、そのためにMRI用の機器が経済的に利用困難な低中所得国からのデータ収集が制限されていた。経済状況と男女間の格差とが関連している可能性を考えると、この点も、今後の研究では改善が求められる」と、研究グループは述べている。

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